株式会社アイシーソフト

設立から4年目を迎える、株式会社アイシーソフト。クライアント直の取引を中心に、情報系システム・業務基幹システム・制御システムの設計・開発を担っている。営業の鈴木氏、エンジニアの尾関氏という職種の異なる二人が、代表取締役というイーブンな立場で並び立つ組織である。「うちの場合、いわゆる“組織”として捉えようとすると面食らう部分が多いかもしれません。部長や課長なんて役職もないですしね。」そう言って笑う二人。確かに企業として珍しいケースだ。いったいそこにはどんな狙いがあるのだろう。

「私たちの会社が目指すのは、頂点から底辺へと広がる“ピラミッド型”ではなく、まるい球体の“ネットワーク型”の組織です。上も下もない関係ですね。今という時代は、社長一人に決定権があって、トップダウンであれこれという時代ではないですから。」社員ひとりひとりが意見を発信し、キャッチし、情報を共有しながら大きくなっていく企業。「だからうちは、お客様からのご要望に対してスピーディーですよ。いちいち上にお伺いを立てなくていいですからね。早く結論がもらえるって喜んでいただいています。」社内的にも、社員は問題点や不満点をダイレクトに伝えることができる。「係長から課長、課長から部長、なんていうシステムでは、レスポンスは悪いし、又聞きの又聞きで実際とズレていたり。うちでは、たとえそれが新人であろうと常に我々が直接話を聞きます。同じ目線で話します。そういう意味では今回のリクルーティングにしても、“社員を募集しています”というより“仲間を増やしたい”という感覚に近いんですよ。」と鈴木氏。4年目で60名を超える規模へと急成長している現状を考えれば、このスタイルが正解だったことは明らかだろう。

そうしたスタイルは、二人がこの会社を設立した動機とも繋がっている。前職でも同じ会社だった二人。互いに役員として10年ほど勤めていた。「130人ほどの会社でした。社長ももともとSEでしたが、組織が大きくなるにつれて“経営者”の目線でばかり物を見るようになって、働く人が置いてきぼりになっていたんですね。結果、離職率が高まりました。エンジニアたちがみな、脂の乗ってくる30代になると辞めていってしまう。するとまた新人を雇う。また中堅が辞める。その繰り返しでした。」役員とはいえ、やはり社長のやり方には合わせて行かざるを得ない部分は多い。そこで転職を決意した。「SEが働きやすい会社に行きたい、と探しました。でも、なかなかなかったですね。ないなら、作ろうよって。全てはそこから始まりました。」

SEが抱く不満は、大きく分けて2種類あると言う。ひとつは、仕事や携わっている業務には満足しているが、社の方針やトップのビジョンにズレを感じるパターン。もうひとつは、会社のシステムの中で自分の資質と異なることを“やらされている”と感じるパターンだ。「そういう例は、いろいろ見てきましたよ。」と尾関氏。「本来、技術畑で技術を突きつめたい人なのに、35歳になったからリーダーやりなさい、とか。逆に、マネージメントに長けている人なのに、若干技術力が劣ることで“できない”という評価を下されたり。」ミスマッチな状況のまま仕事を続ければ、本人のモチベーションは下がっていく。モチベーションの低い人間のいるプロジェクトは、たいてい上手くいかない。それはエンジニアにとってだけではなく、クライアントにとっても不幸な話だ。鈴木氏は言う。「この業界は、物を仕入れて売る商売じゃなくて、何もないところからコンピューターという道具でソフトを作って売るという商売なんですね。仕入れる物がないということは、つまりは人にすべてがかかってくるんですよ。人の技術力とかモチベーションが、製品になって表れていくんです。だから、人を大切にしない会社なんて、いい製品を作れるわけがないんですね。」同社の『人を大切にする会社』というコンセプトは、こうして生まれた。「自分がやりたいことと違うことを、たまたま今の組織でやってる人がいたら、うちに来てできることをできるだけやってもらって、やっただけ給料を取ってもらえばいいんです。」

こうした同社の考えは、瞬く間にクライアントにも浸透していく。考え方に共鳴したという大手企業2社との基本契約が、設立の翌月に早くも結ばれた。鈴木氏が当時を振り返る。「普通だったらありえないですが、結局お客様も同じ不満を抱えていたんですね。我々のコンセプトを説明したら、“まだ数人の会社だけど、きっと大きくなるんじゃないか”“そういう人たちが集まってやってる会社だったら、きっといいものを作ってくれるんじゃないか”って賛同してくださって。」その姿勢は、今も一貫して変わらない。「一番根本にあるのは、できるだけユーザーに近いところで仕事をしたい、という想いですね。この業界の構造上、孫請け、曾孫請けとなっていくほどに、理不尽なしわ寄せが行ってしまう。だから“人を大切にする”ということを理解していただいた上で、直接お付き合いさせていただくことが、SEにもクライアントにも一番幸せなことなんです。」

一方、SEとして常に現場に出る尾関氏は言う。「ビジネス的には確かにお客様ですが、この業界は一緒にプロジェクトに入って作業することも多く、“ひとつのものを作る仲間”という意識が強くなりますね。その観点で言えば、“人を大切にする会社”の“人”は、なにもうちの社員やその家族だけじゃなく、お客様も含めた“人”なんですね。」代表取締役自ら現場に出るのは、社員がどういう気持ちで仕事をしているか、クライアントが何を望んでいるかを、肌で感じたいからだと言う。「エンジニアの目線を忘れたくないんです。たとえ100人、200人と社員数が増えても、僕は現場に出続けたいですね。」

月に一回、名古屋市内で懇親会が開かれる。社員が5～6人だった時から変わらず続けられている。システムエンジニアの仕事はクライアント先でのチームごとの作業のため、なかなかひとつの建物で一緒に仕事はできない。そのために始められたもので、もう4年になる。ここには、クライアントも顔を出す。就職活動中の大学生も。代表も新人もクライアントまでもが参加するこの会は、同社が目指す“球体”の象徴的なシーンかもしれない。「その場で意気投合したクライアントが、“今度うちの現場に来てくれよ”なんて社員を口説いてたりね（笑）。“親戚の子がこの業界に入りたいって言うからアイシーソフト紹介しといたぞ”なんて。仕事をする仲間としてはもちろん、プライベートでもクライアントとのつながりは本当に強いですよ。クライアントに新しいクライアントを紹介していただくことも多いですし。」ちなみに懇親会に参加した大学生はみな、後日同社への就職を決めたという。「本当に、見てもらうのが一番なんです。この記事を読まれる方にも是非、懇親会を覗いてもらいたいな。大歓迎しますよ。」

鈴木氏は言う。「おかげさまで仕事はどんどん増えていくのですが、正直言って需要と供給のバランスが悪い、というのが現状です。引き受けたいのは山々だけど、泣く泣くお断りする案件も多くて。そこで、経験を積んだ中堅層、それも我々と同じような想いでやっていただける人を、仲間として迎えたいんです。」2008年度には新卒が10人入社した。彼らを早く伸ばすという意味でも、中途採用に寄せる期待は大きいだろう。現状に満足していないSE、チャンスに巡り逢えていないSEに、アイシーソフトの門戸は大きく開かれている。