アメリカへの語学留学を経て、起業するまでの経緯をお話しください。
私がアメリカに渡った主な目的は語学を学ぶことです。ただ、それは一つの手段です。私の中には、将来、成功者になりたいという思いがありました。将来を真剣に考え始めると、学生時代のまま生きているわけにはいきません。どうすれば良いかいろいろ悩む中で、参考にしたのが坂本龍馬の生き方でした。龍馬は18歳の時に、土佐から江戸へ修行に赴きます。それは当時、土佐と江戸では言葉も通じませんでしたし、勝手に藩を出れば脱藩とみなされ、罪に問われました。危険を冒して外国に留学するようなものだったのです。龍馬が江戸に行ったのなら、私はアメリカぐらいには行く必要があると思い、留学することを決意。英語を習得しておけば損はないだろうという思いはありましたが、それよりも、自分がこれからどう生きていくのかを模索することが重要なテーマだったのです。 私が留学したのはカリフォルニア州のウィディアシティにある大学に併設された語学学校です。そこには国籍を問わず、主に20代から30代の方々が学びに来ていました。学校の寮に寝泊まりし、英語を学びながら、様々な人々の話を聞きながら、仕事を通して立身出世を果たさなければならないと思うようになりました。特に関心を持ったのがITです。同じ寮生と話す中で、まだ日本では普及していなかった実名登録制SNSを紹介されたのをきっかけに、これからはWEBサービスの時代だと感じてITの道を志しました。 日本に帰って就職したのは東京の会社です。西新宿に住み、渋谷の会社で4年間、WEB広告の代理店営業に従事しました。営業会社の色が濃い会社で、毎月成績上位者が表彰されるのですが、常に3位以内には入っていましたし、その会社の中では史上最年少で役職にも就きました。20代半ばとしては高額な給料も頂いていましたので不満はありませんでしたが、自身の内面から溢れる情熱が勝り、25歳の時に起業しました。
「新しい価値を創造する」という理念や「ITの力で困っている人を助ける」というミッションは、創業当時に掲げたものですか。
「新しい価値を創造する」という理念は創業当時に掲げたものです。前職時代は会社自体が急拡大していましたし、個人的にも最年少で役職に就き、上司からも可愛がっていただいていましたので、そのまま残っていれば、明るい未来を送れるという感覚はありました。収入面だけを考えれば、残った方が良いとは思っていました。 一方では葛藤もありました。会社を辞めて独立しようか、このまま残ろうかと悩みましたが、「どうしても独立したい」という動機があったのです。その動機というのが、「新しい価値を創造する」ことでした。それは理屈ではなく、そこにお金には代えられない魅力を感じるのです。 実際に初年度は住民税の支払いに困るほど年収が激減しました。しかし「新しい価値を創造し、世の中に広めていくような仕事がしたい」という思いには抗えませんでした。その思いをそのまま理念として掲げました。 一方、「ITの力で困っている人を助ける」というミッションは、比較的最近です。ベンチャーが生まれ落ちたからには何か新しい価値を提供し、社会に貢献したいという思いで、約10年会社を運営してきましたが、新しい成長期を迎えるに当たり、社員の中から「新しい価値を創造する」という理念が、具体的に何をすれば良いのか分からないという声が上がったのです。 そこで、何のために新しい価値を創造するのかを噛み砕いて表現したものがミッションです。なぜ新しい価値を創造したいかと言えば、お客様のためです。お客様の満足度を高めるために新しい価値を創造する必要がある。「ITの力で困っている人を助ける」にはそんな思いを込めました。
アメリカの留学生活は、その後の人生にどのような影響を与えましたか。
アメリカでよく言われたことは「自己主張をしろ」ということです。私自身は、日本人としては自己主張が強いタイプなので、アメリカの生活にはスムーズに馴染めましたが、他の日本人は手こずっていました。その様子を見て思ったことは、世の中に間違いはないということです。 日本の価値観では主張しないことが美徳とされます。例えば目の前に、場をわきまえずに騒ぐような人がいたとしても、直接的な表現でたしなめることはしません。オブラートに包んだような婉曲な表現で、察してもらおうとします。アメリカ人にはそれが理解できません。「うるさいから静かにしろ」とはっきりと言います。どちらも間違いではありませんが、社会によって、是とされることが変わってくるのです。そう考えた時に、世の中にはやってはいけないことはないのではないかと思いました。もちろん、犯罪やモラルに反することはしてはいけませんが、人に迷惑をかけず、コンプライアンスを遵守していれば大抵のことは何をしても良い。思い切って起業する決断をしたことにも、そういった経験が影響しています。 また、会社のマネジメントに影響する経験もしました。日本とアメリカでは、考え方の順序が違います。日本では「〇〇をしたらどのような結果になるか」を問う教育をしますが、アメリカでは「〇〇という結果を導くには、何をすれば良いか」を問う教育をします。結果を問う日本に対し、経緯を問うのがアメリカだと思いました。答えを求めない。そういう物事の考え方をする国だからこそ、クリエイティブな新しい事業が次々と生まれるのだなと痛感しました。当社が内的動機を大切にするマネジメントを行っているのは、そのような経験が影響しています。 会社を設立して最初の3年間は、そうではありませんでした。上からやり方を押し付けるようなマネジメントをしていました。しかし、その結果、従業員が半分以上辞めるということがあったのです。その時に、こんなことをしていては良くないと心の底から反省し、アメリカでの経験を参考に、試行錯誤して現在のスタイルにたどり着きました。
従業員教育と組織づくりの考え方を、詳しくお話しください。
従業員教育では、本人に考えさせることを大事にしています。例えばデザイナーにバナー制作を依頼する場合、「このバナーを参考にして、同じように作ってください」という指示の出し方は極力しないようにしています。これからはAIの時代です。既にあるものと同じことをしてもらうのであれば、AIに任せれば良いのです。そこに価値はありません。月額3,000円の生成AIにできることを、月給50万円の社員にやらせる必要はありません。 そうではなく、社員がこれまで歩んできた道のりの中から生まれる何らかの価値をお客様に届けなければなりません。従業員の内側にあるものを引き出して、経営者である私や上司が支援したり、励ましたりして伸ばしながら、お客様に提供するものでなければ価値はありません。 組織づくりも同様で、トップダウンで動かすことは極力少なくしています。マネージャー層には、社員を批判したり、攻めたり、あるいは脅したりするようなことがないよう指導しています。そこで重要なのが人事評価制度です。いくら目標を設定しても、社員に実行してもらえなければその目標は達成できません。上から押さえ付けるのではなく、人事評価制度によって社員を動かしていくのが正解だと思っています。エンジニアやデザイナーにも数字を割り当てて、このぐらいの数値を出せれば、このぐらいの給料になるという指標を明確にしています。そうすれば、誰かに管理されなくても自発的に行動するようになるのです。マネージャーはそのための手伝いをする支援者という位置付けです。
これまで要所要所で考え方や価値観を変えてこられたという印象があります。
私は、成長意欲は高いと思います。自身の成長のため、個人的にコーチングも受けています。妙なプライドを持ってしまっては成長を止めてしまいます。私が会社を伸ばせなくなってしまえば、会社を売るか、または社長を譲るしかありません。 自分の考えや価値観を変えることはさほど難しいことではありません。自己暗示をかければ簡単に変えられます。人間は習慣の動物です。何かを成し遂げたいと思ったら、習慣に取り入れてしまえば良いのです。ただ、習慣化するまでが至難の業です。そこで役に立つのが自己暗示です。スピリチュアルなイメージで捉えられるかもしれませんが、それが一番の近道です。 また、根本的に「できない理由」ではなく「できる理由」を考えることが大切です。結局、それも習慣です。考え方の癖を治すことです。従業員やお客様から何か言われた時に「できない」というのは簡単ですし、楽な方法です。しかし、「どうすればできるか」を考えるところに、実は様々なチャンスが隠れているのです。そこを面倒くさがらずに、しっかり向き合って取り組めば、必ず道は開けます。 長年中小企業向けの100万円ぐらいのWEBサイトを作っていた当社が、大手企業様からご相談いただき、それまでとは桁違いの規模のWEBサイトを作ってご評価いただけたのも、「できない」という考えを一切持たずに、どうすればできるかを筋道立てて考えられたからです。受注する時はチャレンジでしたが、「できない」とは言わずに受注して、綿密に設計したことでお客様の要求を満たせるWEBサイトを制作できました。 当社は、チャレンジしたい方には非常に良い環境だと思います。上司からもあれをしろ、これをしろと細かく指示を出されることはありません。むしろ、社員がどうしたいのかを聞いて、会社全体で応援していくという風土を築いてきました。また縦型組織ではなく、風通しの良いフェアな職場環境です。同僚との調和を大切にしながらも、積極的にチャレンジしたい方はぜひ、私達の話を聞きに来てください。
