株式会社MOYAI

マルチIoTセンシング&エッジAIデバイス『IoTube』などを展開する株式会社MOYAI。テクノロジーを通じて、「皆にとって心地よい社会」を作り出すソリューション企業だ。

代表プロダクトである『IoTube』は、LED照明と一体化したAI搭載カメラ。2024年現在、首都圏の大手私鉄6社の車両で活用されている。この商品は、代表取締役CEOの渡邊亮氏の何気ないひらめきから生まれた。

ある日電車に乗っていた渡邊氏は、自身が片手につり革を、片手にバッグを掴んでいる姿が目に止まる。見渡すと、周りの人たちも同じように両手がふさがった状態だった。長年にわたり、突発的に発⽣する事件や、その冤罪は問題視されてきた。被害を生まないよう、冤罪にならないよう、一人ひとりが両手をふさいだ結果が、この不自由な風景だと感じたという。

「その時ふと、社内の天井の照明を見上げたのです。この照明の隣にカメラを取りつければ、突発的な事件などを防げるのではないか……と思いました」（渡邊氏）。

ちょうどその頃、首都圏の大手私鉄1社が2020年に向けて「全車両に防犯カメラを取り付ける」とプレスリリースしていた。なんとそこに渡邊氏は乗り込み、『IoTube』の構想を提案したのだ。

そこからは早かった。2016年頃に電車内で思いついたアイデアをもとに、2018年に同社設立。同年に『IoTube』、もリリースされ、無事この私鉄へ導入された。

「導入した翌月、この私鉄から連絡があったのですよ。先月は突発的な事件の報告がゼロでしたって。もう嬉しくて嬉しくて。こうやって社会の役に立てるのなら、本格的に規模を大きくして、いろいろなことに挑戦しようと決意しました」（渡邊氏）。

いまや『IoTube』は、首都圏の大手私鉄6社で採用されるまでのヒットプロダクトになった。

実は渡邊氏は、同社のほかにもいくつかの起業を経験している。その一つである株式会社ゲート・オブ・ライティング&ビジョン（以下、GLV）では、LEDビジョンやデジタルサイネージといった商品の開発から製造、輸入販売、メンテナンスまでワンストップで手掛けていた。電車内の照明に着目したのは、渡邊氏ならではの視点だったのかもしれない。

2024年2月にはGLVがMOYAIに事業譲渡をし、「LEDビジョン・デジタルサイネージ事業」と「マルチIoTセンシング&エッジAIデバイス事業」を組み合わせたプロジェクトが始動する。

「今まで私は大学でロボットを研究していたとか、AI関連企業で経験を積んだとか、そういうことは一切ありません。こうして電車内で考えはじめたことから、IoT領域に足を踏み入れてしまったのです」（渡邊氏）。

テクノロジーが目的なのではなく、テクノロジーを通して実現したい世界がある。

こうして同社は、“安心・安全・快適”を表す「A2K」をスローガンに掲げる。アイデアとテクノロジーを駆使して、 “皆が心地よく暮らせる社会”の実現に向けて動き出したのだ。

「当社のような少人数の企業が、どうして首都圏の私鉄6社に『IoTube』を導入できたのか、よく質問されるのですが、ひとえにパートナー企業のおかげなのですよ」（渡邊氏）。

『IoTube』の草案は渡邊氏一人から始まったが、数々のパートナーの協力がなければ商品化は実現しなかった、と渡邊氏は語る。しかしそれはパートナー企業が、渡邊氏の構想に大きな“ロマン”を感じたからに違いない。

「当社の商品開発には、技術力や体力のある大手企業が大勢協力してくれています。ですがお話を聞いていると、大手企業は専門分野が細分化されている印象でした。そのためそれぞれの知見が豊富でも、部署の壁を越えて一つの挑戦をするのが難しいのだとか。しかし一方で、私たち中小企業は体力や営業力などに悩んでいます。……だからこそ手を取り合う意味があるのですよね。企業の垣根を越えて“面白い！”と協力してくれる人たちがいるのは、本当にありがたいことです」（渡邊氏）。

企業や業種の垣根を越えて、技術や思いを結び合わせ、夢を叶える――この化学反応を、結び目の王様と呼ばれる“モヤイ結び”とリンクさせ、“MOYAI”という社名にした。

そんな由来通り、同社は順調に各業界との連携を果たしている。

「例えば、保育所や幼稚園などの未就学児施設内に『IoTube』を設置し、そこで得られたデータを大手保険会社に分析してもらうプロジェクトを開始しました。バス置き去り事故や虐待疑惑なども報道されている昨今、データを利活用して原因究明する根本的な対策が必要なのです」（渡邊氏）。この取り組みは、介護業界や医療機関でのトラブル防止にも繋がっていきそうだ。

ほかにも、人材不足の続く運輸・物流業界での安全対策や、企業内でのハラスメント防止対策など、日本社会で騒がれている社会課題の解決に向けた、様々なプロジェクトが動いている。そこでタッグを組むのは、大手通信企業やIT企業。大手であるがゆえになかなか踏み出せなかった“新たな挑戦”が、同社とならできるのだ。

「どんどん伸びていくIoT市場の中で、今後もニッチトップを狙っていきます。皆が考えているけれど実現できなかったもの、皆が全く考えつかなかったもの……。そういった、まだこの世にほとんどないようなソリューションをどんどん展開していきたいですね。もちろん当社だけでは叶えられません。手を取り合ってくれるパートナーの皆さんと、大きな夢を叶えていきます」そう渡邊氏は胸を張った。
言うまでもなく、2018年の設立から業績は右肩上がり。近年中のIPOも目指しているという。さらに、実はシンガポールなどの海外からも『IoTube』の依頼は舞い込んでいる。同社の挑戦は、これからも際限なく続いていきそうだ。

同社の風土を一言でいえば、“多様性”かもしれない。

現在活躍しているメンバーは、エンジニアなどのIT業界経験者だけではない。コンビニなどの小売業界やフィットネス業界の出身者もおり、バックグラウンドは様々だ。

そんな多様なバックグラウンドは、社内の行動指針作りにも生きている。「現在ワークショップを行いながら、“MOYAI人”という行動指針を皆で作っています。メンバー一人ひとりがどんな会社で働きたいかを聞いていくのです。社長の意見ばかり反映していたら、会社や仕事を自分ごと化するのも難しいですから」（渡邊氏）。

しかしこのような“多様性”が生きるのは、“協調性”があってこそ。

同社では、丁寧なコミュニケーションを心掛けている。社内メンバーはもちろん、様々なパートナー企業との連携を図るには欠かせないことだ。複数の人の知見や考えを知り、それを一つのプロジェクトに取り入れていく必要がある。

「実は、今後は社外パートナーとの交流の機会を増やそうと思っているのです。例えばランチミーティングを定期的に行い、そこにパートナーも呼んだりして。フリートークの中で相手のことをもっと知れると思うし、こういったフランクな場で新たなアイデアも生まれそうですよね」（渡邊氏）。

こう説明していくと、「寝食を忘れて仕事三昧なのだろうか……？」と不安に思うかもしれないが、同社のワークライフバランスは抜群。プロジェクトの繁忙期は慌ただしくなるものの、無駄な残業はかなり避けている印象だ。
こうした働きやすさもあり、社内の育児休暇の復帰率は100%だという。

そもそも、社会の課題解決や心地よさを実現しようとしている同社。オンとオフでしっかりメリハリをつけ、自分の日常を見つめていたら、仕事中に繋がるアイデアもひらめきそうだ。

「我々は日々、数多くのアウトプットを集結させることでプロジェクトを形にしています。もちろん、そのためにはインプットも重要。このアウトプットとインプットで、本人も大きく成長すると思います。そういった成長意欲の高い方と一緒に頑張りたいですね」（渡邊氏）。

様々な知見と、同じ志。仲間と大きな夢を叶えるこのチームが、今後どんな社会を作り出していくのか楽しみだ。

また、2024年春には事務所移転を予定している。
現オフィスの日本橋から、虎ノ門ステーションヒルズへ拠点を移し、より働きやすい職場を目指していく。
(画像：オフィス完成予定図)