八楽株式会社

八楽株式会社は、「グローバルコミュニケーションを楽しく」をビジョンに、翻訳プラットフォーム『ヤラクゼン』を開発、展開する会社だ。『ヤラクゼン』は、AIによる自動翻訳から編集、共有、及び自動翻訳では不十分な部分の翻訳会社への発注まで、すべてを完結できるオンライン上のプラットフォームだ。開発には、立教大学教授でAI翻訳研究の第一人者である山田優氏がチーフ・エバンジェリストとして参画している。

『ヤラクゼン』は翻訳内容を学習し、データベースに蓄積しているため、使えば使うほど翻訳精度も向上する。アカウントごとに翻訳データを個別管理することで、セキュリティ面で安心なことに加え、その会社や業界に特有の用語の翻訳もスムーズになる。主要言語はもちろん、韓国語やベトナム語、マレー語等、対応言語は全33言語（2023年9月現在）。直感的に使えるUI、書類ファイルをクリックアンドドロップすると、その書類のレイアウトのまま翻訳される機能など、使いやすさもとことん追求しているツールだ。

これらの機能や仕様が好評で、グローバル展開している大企業を中心に、累計導入社数は1000社以上に上る。売上は右肩上がりだ。社員約30名の少数精鋭の会社ながら、手掛けているビジネスは大きい。

ジワジワと存在感を増している八楽。創業者は代表取締役の坂西優氏だ。大学を卒業後、アメリカに留学。会計学を修めたあとにニューヨークでマーケティング会社を起業し、主に日本の広告代理店とアメリカ企業を結ぶビジネスを手掛けてきた。その会社を軌道に乗せてから譲渡し、2009年に帰国。八楽を創業した。

ニューヨークでは、物怖じせずにアポなし営業をかける日々だったが、やはり言葉の壁は感じていた。そこで翻訳市場に着目した。まずは、『ヤラクゼン』の前身となるサービスを立ち上げた。それを運用するなかで、ウェブサイトの翻訳やドキュメントの翻訳へのニーズを感じ、オンライン翻訳プラットフォーム『ヤラクゼン』を立ち上げたという経緯だ。

「坂西はとてもアグレッシブな人物で…」と話すのは、経営管理を担う水崎大基氏だ。ニューヨークでアポなし営業をかけていた行動力を日本でも発揮し、サービスの立ち上げに際しては積極的に各所にアドバイスをもらいにいったそうだ。こうして磨き込み、今もブラッシュアップを続けているのが、グローバルコミュニケーションを楽しくする翻訳ツール『ヤラクゼン』だ。

『ヤラクゼン』の特長は三つ。一つは、誰でもすぐに使えるシンプルな画面であること。使い方はとても簡単で、スタート画面でファイルをドロップするか、テキストを入力して言語を選び、スタートボタンを押すだけだ。二つ目は複数のAI翻訳エンジンを搭載していること。独自の「ヤラク翻訳β」に加えてGoogle、DeepL、Microsoft、韓国語の翻訳に適したNAVER社のPapagoエンジンが標準搭載されている。用途に応じてエンジンの使い分け、比較が可能だ。

三つ目がセキュリティ。世の中には無料で使える翻訳ツールも多々あるが、企業が利用するには、セキュリティ面で不適切なことが多い。『ヤラクゼン』はアカウント毎に翻訳データを個別管理し、ほかのユーザー、ほかの企業にデータが流出することはない。データ通信の暗号化、バックアップ等の安全に対する各種対策も万全だ。実際、セキュリティ面の懸念から、DeepLやGoogle翻訳を使用禁止にしている企業は少なくない。『ヤラクゼン』を使うことで安全に、かつよりユーザーに適した形でそれらを使うことができる。

このほか、『ヤラクゼン』の自動翻訳の精度を高めている仕組みが、アカウント（＝カンパニー）ごとに管理している「フレーズ集」と「用語集」だ。まずは、ユーザー（＝社員）が登録する「フレーズ集」と「用語集」をベースに自動翻訳される。その自動翻訳を人が編集することで、さらにフレーズ集や用語集に言葉が登録され、次の自動翻訳に活用される。こうして使えば使うほどエンジンが学習し、精度が上がる。また、アカウント内で一般ユーザーと責任者的なユーザー（翻訳マネージャー）で権限を分け、登録は、リテラシーのある翻訳マネージャーに限っている。これにより、データが荒れることなく、その会社独自のエンジンが生成され、会社全体の生産性が高まっていく。

翻訳した文章の水準も高い。それは『ヤラクゼン』ならではのプロセスがあるから。「翻訳は、フレーズの区切り方次第で結果が変わってきます。例えばChatGPTも、使いこなすのが難しいのはそのため。『ヤラクゼン』の場合は、自然言語処理専門のエンジニアが、より適切な翻訳ができるような処理をしています」と水崎氏。だから、世で騒がれているChatGPTはこわくない。むしろ追い風だ。近々、『ヤラクゼン』内でも使えるように取り込む。ほかのエンジンも同様だ。全てを取り込み、より使いやすくするからこそ、「いろいろ出てくるのは、それだけマーケットが拡大することでもあり、むしろ歓迎です」（水崎氏）ということになる。

そんな『ヤラクゼン』の課題は認知度。業界では、すでに名の知れた二大サービスがある。追いかける『ヤラクゼン』は、機能や価格などで勝っていると自負があり、実際、順調に伸びているが、今後の爆発的な成長には認知度が必要だ。見込みはある。先頃、大手総合商社で『ヤラクゼン』が導入された。グローバルで何万人もの社員が使い、クオリティーへの評価も極めてシビアな会社に認められたことは、『ヤラクゼン』にとって大きなアドバンテージだ。この導入実績を武器に、急拡大を目指す。

社内は、ライフステージ、バックグラウンド、国籍等も幅広く、極めて多様なメンバーが集まっている。マネージャーとして採用を担当する中山真貴子氏もその一人。前職はスクールカウンセラーだ。様々な困難を持つ生徒たちと向き合い、卒業生たちが社会に出て苦労する姿も目の当たりにした経験から、自分も企業というものを経験してみようと考え、八楽にやってきた。「そもそも正社員になる気はなく、ビジネスサイドで働いた経験もないので、社会勉強をしようと思ったのです。実際に入ったら、私がやれる仕事、やりたい仕事をどんどん任せてくれて、今はバックオフィス部門のマネージャーです」と中山氏は振り返る。

中山氏のような人材は多い。「八楽は働き方もフレキシブルなので、どんどん業務の幅が広がります。最初は扶養範囲でと言っていたのに正社員になった人も。恐らく皆さん、自分の可能性を追求したい思いが強いのです。裁量を持って働き、得意なことを見つけて、それをどれだけ伸ばせるか。自分自身の価値の追求を、皆さん楽しんでいると感じます」（中山氏）。

実際、全社員へのアンケートで八楽の良いところを尋ねたところ、ほとんどの人が「裁量が大きく自分の考えを持って働けるところ」と答えたという。仕事に垣根のない環境で、どんどん経験を積んで成長する。それを、柔軟な働き方が後押しする。同社には小さい子供を持って働く人も多いが、時短正社員、リモート等で成果を出す。中山氏は言う。「働き方を柔軟にすると、これだけ埋もれた才能を引き出せるのだと感じました。誰一人欠けても今の成長はなかったと思います。部署の垣根なく、取締役を含めていろいろな人といろいろな話をします。そのなかで、自分の仕事がどのような影響をもたらしているか、会社の成長にどう貢献しているかが分かる。手応えは大きいです」

『ヤラクゼン』もさらに進化する。インターネットやコミュニケーションツールの発達を背景に、専門部署だけでなく、あらゆる人が日常的にグローバルなコミュニケーションを必要とするなか、翻訳業務の効率化は企業の喫緊の課題だ。世界が、社会が『ヤラクゼン』を求めている。一緒に「グローバルコミュニケーションを楽しく」する仲間を求めている。