株式会社SENRI

株式会社SENRIはアフリカ・アジアの計6カ国（2022年11月時点）で、製造業・卸売業の営業活動を支えるサービス『SENRI』を開発・提供する企業だ。紙ベースのアナログな手法が主流の新興国において、流通のデジタル化を支援する。
同社がミッションに掲げるのは「技術で信用の架け橋となり、新興市場の企業の可能性を切り拓く」こと。データと技術で「信用」を可視化するサポートを通じて、導入企業のビジネス拡大に貢献したい考えだ。
これまで以上にスピーディーかつ確実に顧客へと価値を届けるため、開発体制を強化する。

同社は2015年9月に『SENRI』をローンチし、ケニア・ナイジェリアを中心とするアフリカでサービスを展開してきた。2020年2月からはインドネシアでの展開も開始。2022年11月時点で計6カ国200社以上の企業に導入され、毎週10万件以上の営業報告が上がるビッグ・トラフィックを持つ。前年比3倍ペースで成長を遂げており、今後も新興国へ向けて積極的に展開を図る計画だ。

『SENRI』はAndroidとWebの二つのモジュールを持つ。モバイルアプリの基本機能はGPSトラッキングや電話のログ、営業報告、受注・配送・支払いの管理等。それらの情報はインターネットを通じてリアルタイムにサーバに送られ、Webアプリ上でも確認できる。Webアプリはオフィスにいるマネージャー向けを想定。外回りの営業スタッフのモバイルから上げられたデータを即時確認できる他、分析機能をカスタマイズしたり外部分析ツールとAPIで連携したりすることで、戦略立案や人材育成に役立てることもできる。

続いて「技術で信用の架け橋となる」とはどういうことなのだろうか。
営業は成果が上がればプロセスを問わない、との考え方があるかもしれない。一方でプロセスを可視化したりデータとして蓄積したりすることで、業務改善や次のステップへの材料にしたいと考えるマネージャーもいる。
『SENRI』のGPSトラッキング機能では営業スタッフの行動の確認や、営業報告に対して、店舗や棚の写真を添付してもらい目視での状況確認もできる。新規顧客開拓の活動として1日10件の訪問をしているという報告に対して、チェックインデータを共に記録していくこともできる。このように事実をデータとして可視化しマネージャーと共有することで、スタッフは信用を積み重ねていくことができるのだ。

CTOの杉山佳範氏は「仕事をする上で『信用』は重要ですよね。信用があるからこそ『この人になら任せられる』と、どんどんできることが広がっていく。ところが、新興国では『信用』がネックとなって企業の可能性がロックされている面があります。そこを私達がアンロックしたい。信用が企業の成長に繋がり、ひいては新興市場の拡大へと繋がっていくと考えています」と話す。

同社はなぜアフリカをはじめとする新興国で事業を展開しているのだろうか。
それは創業者であり、代表取締役を務める永井健太郎氏の経歴に関係する。永井氏は新卒でJICA（国際協力機構）へ入構し、アフリカやアジア等の発展途上国で民間セクター開発、インフラ開発の仕事に取り組んだ人物だ。その後、永井氏はアフリカでコンサルティング業を開始する。アフリカで一番多い課題は何かを洗い出すワークショップを開催した際、多く寄せられたのが営業に関する悩みだった。実際に永井氏も、営業スタッフが訪問先を回り帰社した後、紙に発注内容や訪問記録を書く作業に忙殺される姿をよく目にしていた。
「小売店の多いアフリカにおいて、多くの流通業者が抱える営業に関する課題をITの力で解決できないか」この着想が『SENRI』開発のきっかけとなった。
こうして2015年8月に『SENRI』のベータ版が生まれる。
アフリカの都市部はインターネット環境が整備され、スマートフォンの普及率は高い。しかし都市部を離れれば状況が違うため、オフラインでも動くような仕様を取り入れ、ITの知見がない人でも理解しやすいUI設計やサポート体制を徹底した。スタート当初から大手企業に働き掛ける積極展開も功を奏し、現在では前述の通り200社以上の企業で使われるサービスに成長した。

杉山氏は「『SENRI』の始まりはアフリカで永井が感じた課題感でしたが、モノ・カネ・情報が動く流通のフィールドで、実は課題感はどこもそう変わらないことが分かってきました。2020年にインドネシアでサービスを開始してそれが確信できたので、今後はアフリカに限定せず、発展著しい新興国へ向けてサービスを拡大していく計画です」と展望を語る。

また『SENRI』の機能拡充にも積極的だ。例えば大量に蓄積するデータから「売れる営業マンの型」を見つけ出して社員教育に活かせば、短い期間で戦力として立ち上げられる。育成を前提にした未経験者採用が広がれば、雇用促進に繋がる。他にもこれまで決めた額の仕入れしか行っていなかった小売店に対して、AIスコアリングの結果を基にしたファイナンスの機能を取り入れることで、より多くの仕入れを行えるようになる。それによって在庫切れの解消や売上拡大等の効果も見込まれる。
社名に込められている通り、見据えるのは「千里先の未来」。技術で信頼関係を構築するサポートには、エンジニアの力が欠かせないのだ。

少数精鋭の開発チームは「どうすれば価値ができるか」を常に議論し合う。現地スタッフからのフィードバックを受けたプロダクトマネージャーがフィルタリングして改修や機能追加等の要望をエンジニアチームへ渡す流れだが、「ユーザーにとって価値の提供になるのか」「隠された課題が他にあるのではないか」といった検討をチーム内で行った結果、差し戻すこともあるという。

「当社のエンジニアは本当に顧客のためを思って仕様を決めて開発できる楽しさがあります。また代表をはじめビジネスサイドとの距離が近く、大企業にはないスピード感が魅力。そして日本では遭遇しない未知の課題解決に挑戦できる点も、当社ならではの面白さです」（杉山氏）。

創業当初から開発に携わるエンジニアの本田氏は、次の体験談を話してくれた。
「日本は単一通貨ですが、国によっては複数の貨幣を扱う場合もあります。色々な要望があり、スイッチングするための複雑な条件管理が必要で課題が大きい分、やり遂げた時の達成感は大きいです。またインドネシアに進出した時、アプリが開かないという事象が起こったのですが自分達ではなぜか再現できない。突き詰めた結果、通常だと3桁ごとにカンマを打ちますが、インドネシアはピリオドを使うというルールがあり、数字処理のクラッシュが原因でした。知らないことだったので、面白いと感じました」
他社員からも日本では知ることがなかったことを知る楽しさや、複雑で解決しがいのある課題に遭遇する点がやりがいとして多く挙がった。
グローバル展開のサービスだが、英語力に関しては「あればベター。日本語だけでも全く問題ない」という。英語力を磨きたい・活かしたいエンジニアならば、現地と直接やり取りする機会をつくれるため、そこは希望や志向次第だ。

働き方の自由度は高く、月・水の出社日以外はリモートでも出社でもどちらでも構わない。1.5カ月～2カ月に一度の頻度でアプリをリリースする方針で、積極的に新しい技術を取り入れるべく、週に一度は勉強会を開催する。
アプリのリリースに合わせて、通常のタスク以外に自由に取り組んでいい日を定めているのはユニークだ。
「その日は技術的負債の解消、新しい技術の調査、技術の深掘り、普段できないことに集中してもらってOKです。あと好きなポテト料理やお菓子を持ち寄る『ポテトデー』では、代表も交えて雑談を楽しんでいます」と杉山氏。
和やかさがありつつも、議論の軸は常に「顧客にとっての価値とは」。本質を探る対話をベースに、課題解決に挑むチームだ。