株式会社アップルワールド

株式会社アップルワールドは、旅行会社向けにホテルの手配予約をするプラットフォームを運営している。

ホテルの手配予約とは、旅行会社とホテルを結ぶ、旅行業界の裏方として活躍する存在。旅行会社がホテルを予約するに際し、直接ホテルにではなく「手配会社」に依頼する。手配会社はクライアントの依頼に合わせてホテルに予約を入れる。国内だけでも旅館業の営業許可施設は約8万施設もあり、ホテルだけでも1万軒以上ある。旅行会社で全ての取引をするのは難しく、専門の「手配会社」が必要とされてきた。

1991年に創業した手配会社のアップルワールドは、1996年、ホテル手配専門のWebサイト『アップルワールド.com』をオープン。他社に先駆けてホテル手配のオンライン化を成し遂げた。

「ホテル予約手配が電話とFAXを主流とする時代に、アップルワールドはいち早くオンライン化を実現しました。業界にイノベーションを起こした結果、アップルワールドの名前は業界全体に広まりました。現在、全国に旅行会社は1万社あるといわれていますが、当社のアカウントを持つ旅行会社は7,000社に上ります。提携ホテルも国内約5,000軒を含む全世界約110,000軒で、ホテル手配といえばアップルワールドと言われるほど、旅行業界内の認知度は高いものがあります」（代表取締役社長・深田）。

2018年2月、旅行業界での知名度抜群のアップルワールドが、求人・住まい・車等のライフイベントにまつわるWebサービスやメディアを企画・運営している「株式会社じげん」のグループに入ることになった。

「じげんグループに入ったことで、アップルワールドはオンライン手配会社から、旅行プラットフォームの運営会社へと進化を始めました。アップルワールドは手配会社として抜群の知名度とシェアを誇り、そこに親会社のじげんが持つエンドユーザー向けのデジタルマーケティングのノウハウを掛け合わせれば、アップルワールドのホテル手配予約プラットフォームを、アップデートすることができます」（代表取締役社長・深田）。

手配予約プラットフォームをアップデートするために、同社はじげんグループに入った2018年以降、事業ドメインの拡大を図ってきた。コンシューマー向けの新規サービスを立ち上げ、事業譲受で航空券の予約サイトの開発・運営にも進出。旅行プラットフォームへ向けて次々と会社のアップデートを続けている。

ホテル予約の比較サイト『Travery（トラベリー）』は、海外・国内のホテルの一括検索・比較ができるメタサーチサービス。そのほかにも、格安航空券・LCCの簡単比較・予約サイト『TRAVELIST（トラベリスト）』を手掛けている。

個人旅行に特化したホテル予約のスペシャリストとして事業を展開してきたアップルワールドは、じげんグループ入りをきっかけに、事業領域を拡大して、今やメイン事業の国内旅行会社向けホテル予約手配サイト『APPLE WORLD』の売上に占める割合は半分にまでなった。

「2018年のじげんグループ入りをきっかけに会社は大きく変わりました。新しいアップルワールドを作り上げるに際して、最重要視したのは、ハイブリットな企業カルチャーの創出。じげんグループには『カルチャーコングロマリット』という理念があります。M&Aで譲り受けたサービスをデジタルマーケティングの力で、モダンなサービスに生まれ変わらせることで価値を創造してきたじげんは、サービスごとに異なるカルチャーがあっていいという考え方をしており、共通のカルチャーを押し付けることはしません」（代表取締役社長・深田）。

じげんから来たデジタルが得意な人材は「数字」でビジネスを語る。定量的なKPIを設定して、それをクリアすることでビジネスをグロースさせる。一方で旅行業界を歩んできたアップルワールド生え抜きの人材は、ホスピタリティを重視する。相反する企業カルチャーではあるが、お互いに歩み寄って融合することで、新生アップルワールドの強固な企業カルチャーを生み出すことができる。

新生アップルワールドのハイブリッドな企業カルチャーを生み出すために、同社が重要視したのが「デザイン」だ。例えば、ロゴマークの刷新。既成概念をひっくり返して四次元的な発想で、旅行業界にくさびを打ち込む。そんな思いをロゴマークに込めた。

「リンゴを逆さまにして斜めにしたモチーフ。アップルワールドの頭文字AとWで構成。成長・進化をイメージして文字を右肩上がりに。私達の仕事はホテルの手配だけではない。旅は自分を変えてくれ、多くの人に影響を与えるチャンス。私達はその機会を生み出し、人々の運命が繋がって未来を作っていく、という意味を込めました」（デザイナー・室井瑛理子）。

2024年6月には、オフィスを西新宿に移転。
海外のカフェストリートをコンセプトにデザインされたオフィスは、エントランスからのびる石畳とレンガの壁、両側のグリーンが印象的。その先にあるミーティングルームも、「Mocha（モカ）」「Espresso（エスプレッソ）」といったカフェにまつわる名称になっている。執務エリアも約半分がフリーアドレスになっており、こちらもカフェをイメージした空間になっている。

Ruby on RailsやReactを使う等、開発環境も新しい技術を積極的に取り入れているアップルワールド。エンジニアが働くにも最適な環境が用意されている。しかし、エンジニアとして働くには「旅行業界」というレッドオーシャンにチャレンジするリスクが気にかかるところだ。

「旅行業界はレガシーな技術や考え方が支配する古臭い業界かと思われるかもしれませんが、デジタル化は他の業界に先駆けて進んでいます。ただ、プレイヤーが多く、レッドオーシャンに映るかもしれません。ところが、コロナ禍で旅行業界全体が死に体になったことでチャンスが生まれつつあります」（代表取締役社長・深田）。

旅行業界はコロナ禍で大きな打撃を受け、変化を余儀なくされている。何もなければ、既得権益を奪うのは大変だが、コロナ禍で全てがリセットされようとしているのだ。デジタル化を推し進めることで大きなチャンスが生まれる可能性がある。

「既得権益を持つ業界大手に挑むだけでなく『旅行』という概念をアップデートするような大きなゲームチェンジを起こすことも可能かもしれません。じげんグループの経営基盤をレバレッジして旅行業界が置かれている環境変化を掛け算すれば、非常にファンタスティックなチャレンジができると思っています」（代表取締役社長・深田）。

旅行業界は商材の複雑性が高い。交通手段とホテルを選ぶだけでも、色んなパターンが考えられる。かつ価格が変動する。同じホテルでも予約する時期や旅行代理店によって価格が変わる、非常に特殊な業界。ITテクノロジーを活用する場面がまだまだ沢山考えられる。

「店舗を持ち、旅行商品を企画・販売する旅行会社が支配的な業界に、インターネットのみで取引を行う旅行会社『OTA（Online Travel Agent）』が乗り込んで競争をしていますが、デジタルサービスとしての『旅行』のカタチはまだ定まっていないと考えています。アップルワールドがプラットフォーマーになることで、デジタル旅行サービスの可能性を追求していきます」（代表取締役社長・深田）。

旅行業界はデジタルサービスだけでは完結しづらい領域だと、海外航空券・海外旅行における国内最大手のオンライン旅行会社で活躍した経歴を持つ深田は語る。

「デジタルサービスに長けたメンバーと旅行業界の商慣習に精通したメンバー。この両軸が揃って初めて旅行業界でデジタルサービスを展開できると考えています。だからこそ、アップルワールドは、デジタルと旅行業界のカルチャーをハイブリットに融合させることを重視しています」（代表取締役社長・深田）。

親会社の株式会社じげんは、これまでもレッドオーシャンに乗り込んで、新しい感性とデジタルマーケティングでシェアを開拓してきた。そのため、ポジショニングの確立の仕方をノウハウとして持っている。レッドオーシャンでレガシーな業界だからこそ、じげんの強みを最大限に生かせるのかもしれない。