一貫して追求し積み上げたサーバ技術や国際特許も取得した技術力が強み
ゲームディベロッパーの、株式会社ソフトギア。オンラインゲームに絞り込み、その中でも特にサーバ開発技術に強みを発揮している、ゲーム開発業界における唯一無二的な存在である。ただし、“ゲーム会社”に拘泥しているわけではなく、技術力をコアにして恒久的に継続・成長し、多くの産業に貢献する存在を目指している。
同社の事業内容は、次の3部門に分かれる。
●ゲーム開発事業
大規模MMOやコンシューマーゲーム、ソーシャツコンテンツといったリアルタイムネットワーク型に特化したオンラインゲームの、企画からプログラミング、デザイン制作、デバッグ、開発コンサルティングまでの受託開発をワンストップで手がける。
●TS(テクニカルサービス)事業
ゲーム開発における開発実績を基に他業種(放送・通信・エンターテインメント業界)に展開、サーバ開発やシステム開発、ライブラリの販売や開発提携を実施中。
スマフォ(iOS/Android)開発、バックエンド開発(Java,C#等)、Iot分野(C++等)
●開発支援(QA)事業
デバッグサービスを、プランニングから業務遂行、レポーティングまでワンストップで提供。単なる人的なデバッグ作業だけではなく、サーバログを独自のロジックで分析しバグを特定する開発支援ツール「STRIX DMS」を自社開発し、“TQA”(Technical Quality Assurance)サービスにシフトしている点が強み。
●ライブラリ事業
ゲームを始めとするオンラインコンテンツ開発に必要なネットワーク機能と、アプライアンス性の高いサーバソリューション、高速な3Dエンジンで構成され、Windows、Android、iOS、PS4などあらゆるプラットフォームに対応するライブラリ「STRIX ENGINE」を独自プロダクトとして提供。
同社の技術力の特長について、代表取締役の青木健悟氏は次のように説明する。
「弊社のサーバ技術として、非同期通信をどれだけ速く行えるかを突き詰めるとともに、そのスケーラビリティに対応できるサーバをどう開発するかというテーマに一貫して取り組んできました。ここにおいては、他社の追随を許さないと自負しています。また、デバッグのAI化技術に関する国際特許も取得しています。こうした強みを大手ゲームパブリッシャーに評価され、著名タイトルを中心に手がけることができています」
これまでの主要な実績としては、「ファイナルファンタジー」「ファンタジーアースゼロ」「Devil's Third」「ポケットモンスター」「初音ミク」など。こうした著名タイトルを手がけられるのは、メンバーには大きなやりがいに違いない。
ソフトウェア技術を基軸に、恒久性のある公的な存在を目指す
同社を創業した青木氏は、大手のエンジニア派遣会社でキャリアをスタートし、上場するタイミングの人材ベンチャーに転じて地方拠点やシステムコンサルティング子会社の立ち上げに関わる。その後、営業先として知り合ったオンライン技術系ITベンチャーの再建に関わることに。当時、オンラインゲームが出始めたことに着眼した青木氏は、ゲーム業界にターゲットを絞り次々に開拓。同社を、オンラインゲーム向け通信ミドルウェアMPSを手掛けるネットワーク技術者集団に導く。その間、ゲーム業界に多くの知己を得た。
60~70名規模まで成長したところで、会社を外資系のネットサービス大手に売却する話が浮上。売却に反対した青木氏は同社を離れ、知人であるゲーム業界の著名経営者の要請で携帯コンテンツ会社設立に関わり、その後大手ゲームパブリッシャーの要請を受け、ソフトギアの創業に至る。当初はその大手ゲームパブリッシャー専属の独立系ゲームディベロッパーとしてスタートし、その後専属契約は解消した。
同社創業の思いを、青木氏は次のように話す。
「文系出身の自分はものづくりはできなくても、会社をつくることはできる。では、どういう会社をつくるか。そこで考えたのは、個人事業の延長のような会社ではなく、恒久性のある公的な企業をつくるべきであるということです。したがって、IPOも目指しています。日本では実感が得にくいかもしれませんが、世界には失業者が溢れています。仕事に就けるというのは幸せなこと。そんな受け皿となることを第一の目的として、企業理念を定めています」
●企業理念:未来貢献
その方法論として、次の3項目を掲げている。
・感動の創造と提供:発見、発明にチャレンジする事で、商品を通じ感動、感銘を提供する
・ソフトウェアの使用価値の追求、生産力のあるソフトウェアの提供:ソフトウェアの使用価値と生産性を追求し、多くの人の生産活動を助ける技術とコンテンツを提供する
・社会貢献しゆく人材の育成:自らの技能、技術を伝え紡ぐ事のできる人材を多く輩出できる会社である
「目先の仕事ばかりに捉われるのではなく、常に10~20年先に花開く技術も睨んでR&Dを手がけ続けていく方針です。クルマは非常に複雑で高度な技術の集合体ですが、ユーザーはアクセルとブレーキとハンドルという非常にシンプルなインターフェースで操作できます。それと同様に、ゲームはソフトウェアのインターフェースとして非常に優れているので、弊社は現在まで取り組んできているのです。今後、あらゆる産業にDXが浸透していく中、弊社は一つのベーシックな技術としてのネットワークと、VRやARを含む多様なインターフェース技術を掛け合わせ、複合的にソリューションを組み立てていく会社を目指します」と青木氏は強調する。
ソフトギアという社名は、「自社は黒子に徹する“道具”とのコンセプトから命名した」と青木氏。自社タイトルを開発できるメンバーが揃っているので、偶発的に開発する可能性はあるものの、自社タイトルを開発して当てるといった事業計画は立てない。そこに青木氏の堅実な経営観があるといえるだろう。
カルチャーの特徴は“ロジック重視”と“実力主義”
2020年11月現在、同社の社員は約170名。うち60名をエンジニアが占め、デザイナーとプランナーが20名ずつ、QAテスターが50名、役員やバックオフィスが20名といった内訳だ。うち、十数カ国から30名ほどの外国人が入社している。バイリンガルの日本人社員が少なくなく、社内コミュニケーションの多くは英語だ。
そんな同社のカルチャーの特徴は“ロジック重視”と“実力主義”。
ロジック重視について、青木氏は次のように説明する。
「例えば『面白いものつくろうぜ』と言っても、ノリで『やろうぜやろうぜ!』とはならず、『面白いとはどういうことか?』『どのようにつくるのか?』といった質問が返ってくると思います。面白い、とは得てして感覚的なものであると思いますが、そのことを誰にも等しく伝えるプロトコルとしてロジックを重視するという雰囲気があるので、ロジカルに説明できれば『つくろう!』というコミュニケーションになると思います。結果的に、外国人社員ともコミュニケーションが取りやすいですね。また、真面目な社員が多くを占めるせいか、普段のオフィスはとても静かです」
実力主義に関しては、技術力やマネジメント力、知識レベルなどの評価項目を数値化し給与レンジに反映。28歳で年収1,000万円超えのエンジニアが在籍している。また、1年間でいっぺんに月給が40万円、年間で500万円も昇給した“スーパーエンジニア”もいる。
「上限を設けているわけではないので、そういう並外れた能力を持つ人材にはそれだけの待遇で応えたいと思っています」(青木氏)
社内コミュニケーションは、コロナ禍以降は部署やプロジェクト単位のミーティングが基本で、会社全体の活動は縮小している。その代わり、社員同士で旅行に行くといった申し出があれば、会社が一部費用を提供している。
同社の求める人材像について、青木氏は次のように話す。
「何か新しいことを頼んだ時、『教えてもらっていません』と返す人がいますが、一流のアーティストやクリエイターがそんな回答をするでしょうか。新しいことに関心を持ち、自ら勉強を怠らない方であってほしいです。また、誠実かつアグレッシブな方がいいですね」
ゲーム業界を裏から支えつつ、武器となる技術を中長期的に磨き続ける同社。注目すべき存在といえるだろう。