泉工医科工業株式会社

医科器械の総合メーカーである泉工医科工業株式会社。
同社は医療器械の研究・開発をベースに、現在では消毒関係から手術室、病室関連機器の製造までと幅広く手掛けている。

もともと同社は初代社長である故青木利三郎氏がつくった医療関連の器械屋から始まった。医師が使う小さな医療機器を作っていたのである。
この小さな器械屋は病院関係者と少しずつ信頼関係を築いていき、1950年に泉工医科工業株式会社という企業へと発展していった。同社が国産初の麻酔器の製造に成功したのはこの年である。3年後には同様に国産一号の人工心肺装置、その1年後には人工腎臓装置を完成させていく。
これによって名実共に医科機器の総合メーカーとして確立していったのである。

同社は「泉心－誠実、信頼、感謝」という社訓をもっている。多くの人々に感謝され、感謝すること、つまりは社会に貢献することが、企業の最終目標なのだという。そんな同社は一体どのような会社なのか。日本屈指の有名大学病院が集まる本郷にあるビルで話をうかがった。

同社の事業を簡単にいえば、多種多様な医科器械をつくることだ。
中でも同社がもっとも得意とするのは、国産初の人工心肺装置をつくったことからもわかるとおり、循環器関連製品である。これに関しては多くの製品で国内トップクラスのシェアを誇っている。

その他、麻酔関連製品（気管切開チューブ、全身麻酔器、麻酔用回路など）、手術室・病室関連製品（電気手術器、持続吸引器など）なども有名だ。つまるところ、同社は医療専門メーカーとして、医療全般に携わる製品を医療機関へ提供しているのである。

こうした中で同社が強みとしてもっているのが製品をカスタマイズできる点である。同社は病院側、患者側にとってプラスになるよう製品をその病院や医師に合った形に一つずつ作り変える事もしているのだ。

総務部長の浅沼氏は次のように語る。
「当社では、たとえば人工心肺の回路を病院・ドクター仕様にしています。病院の手術室はそれぞれ形が異なります。手術室の広さ、手術台と器機の位置関係、医師の立つポジションなどあらゆる点で違いがでてきます。当社ではそうしたことをすべて計算にいれて、製品を一つひとつカスタマイズするのです。たとえば手術台と機器の位置関係を計算して回路の長さと太さを変えることで患者になるべく負担のかからないようなものにするのです」

ここまで病院や患者のためにしているメーカーはないと言ってもよいだろう。外資などが海外仕様の製品をそのまま病院へ導入しているのと比べると、同社の取り組みは目を見張るばかりである。こうしたたゆみない努力こそが同社の信頼と実績につながっているのも事実だろう。

同社が病院や患者のために行っている取り組みを象徴するのが営業である。同社は全国に25箇所の拠点をもち、700あまりの代理店・特約店をもっている。そしてメーカーでありながら、社員の半分を営業担当として全国に置いているのだ。

同社がこれほどまでに営業に力を入れているのにはわけがある。営業を単なる営業として行うのではなく、その地域の医療に深く関らせることで、様々な問題やニーズを集めているのである。

浅沼氏は次のように語る。
「営業担当者の中には、病院の手術室にまで入っていって、実際に人工心肺などの機械がどのように動いているかまでをチェックしている人もいます。そこまで現場の医療の中に入り込むことで、ドクターが何を求めているのか、医療現場に何が足りないのか、どんなカスタマイズが必要とされているのか。そうした情報をいち早く集め、それを会社にフィードバックすることで、より良い製品づくりを行っているのです」

また、それ以外にも、同社では営業担当者を積極的に国内外の学会や展示会に派遣している。元は文系や工学系の人間でありながら、最先端医療を学び、その上で製品を説明したり、売ったり、提案したりする力をつけていってもらいたいと考えているからだ。

同社は自社製品をつくるだけではなく、海外の製品を積極的に輸入して、それを提供している。現在特に力をいれているのが整形関連の製品である。この分野にいたってはほとんどが輸入品である。だが商品によって、ゆくゆくは自社製品に切り替えていきたいと考えている。

また、輸出についても積極的に考えている。同社の循環器関連製品の中にCorartBP-21というものがある。高性能のIABP(大動脈バルーンポンプ)駆動装置である。IABPは世界でまだ5社しか発売にこぎつけていない。同社はその1社である。同社では、この製品を武器にして、今後は製品輸出を行っていこうとしているのだ。

総務部の深山氏は次のように語る。
「当社の仕事は裏方です。医師や看護師は患者さんから感謝されますが、私たちは直接患者さんと関って『ありがとう』といってもらえることがありません。ただ、それでも人の命に深く関って、そこにやりがいを見出し、社会貢献をしていると考えられる人を求めています。そのために一番必要なのが、社訓にもあるように誠実さなのです。人の命に関る為にはこのことが不可欠なのです」

同社も人として会社として誠実さが必要だということは十分わかっている。
浅沼氏はこう語る。「私が転職したのは不況の最中でした。にもかかわらず、会長からこんな言葉を掛けられました。『社員がヤリガイを持てる環境と処遇作りを、考えてやってくれ』当社の社風はこの言葉に集約されています。つまり会社が社員の喜ぶ事を常に考えてくれる会社なのです」

会社が社員のことを考え、社員が病院や患者のことを考えることで、人の命を守っていく。そんな理想的な形がこの会社にはあるのかもしれない。