創業110年以上、正確な計量値を提供することにこだわり続ける
株式会社田中衡機工業所は、“工業用はかり”に特化したメーカーである。汎用品だけでなく、用途や使用環境に合わせたカスタムメイド品の質の高さにも定評があり、その設計・製造・販売・設置からメンテナンスまで一貫して対応するきめ細やかなサービスによって、顧客から高い評価を獲得している。産業向けであるため、世の中に広く社名が知られているとは言い難いが、産業界では“高い信頼性”とともにその名が語られる老舗中の老舗だ。
これは余談だが、"世紀の一戦"として注目されたモハメドアリ対アントニオ猪木戦の前日計量に使われたはかりは田中衡機工業所製であり、現在も格闘技の計量では同社のはかりが使用されることが少なくないという。また、より身近なところでは、日本を代表する航空会社の国内線カウンターで荷物の計量に使われているカウンタースケールもほぼ同社製だ。
創業は、明治36年にまでさかのぼることができ、当時の農商務省から度量衡製造の免許を受けて新潟県三条市で曲尺・マス・棒はかりの製造を開始したのが始まりだという。以来、110年以上にわたって変わることなく守り、こだわり続けてきたことが、「正しい計量値を提供すること」だと代表取締役社長・田中康之氏は強調する。
「はかりは、さまざまな産業で使われていて、その計量値はビジネスのあらゆる場面で重要な判断基準になっています。たとえば、お米や農作物、豚や牛などの家畜の重さは取引価格や出荷のタイミングなどに関わりますし、複数の原料を決まった分量で混合して製造する製品の場合、正確な計量値を提供できなければ、品質に大きな悪影響を及ぼしてしまいます。事故やインフラ破壊の原因として問題視されているトラックの過積載を防ぐには積載量を正確に量る必要がありますし、新車の車重バランスが狂っていると、運動性能の低下につながってしまいます。日頃意識することはあまりありませんが、『正確な計量値』は産業を支える重要な基盤の一つになっているのです」
そして、「正しい計量値の提供」という変えてはいけないものを守るため、時代の変化や技術の進歩に合わせて、変えるべきものは変えていく積極さがあるのも、同社の大きな特徴だ。
IoTやAIなどの先進技術×はかりの可能性を追求
はかりは、使用する環境にもよるが、そう簡単に壊れるものではないため、数十年間使われ続けているものも少なくない。だからこそ、販売後のメンテナンスが重要になるのだが、壊れにくいというイメージからか、年1回程度の定期点検だけで済ませているユーザーが多くを占めているのが現状だ。
「しかし、はかりもモノであるからには、古くなるほど不調や故障の危険性が高まります。それに、突然はかりが壊れてしまったら、工場の生産がストップして大きな損害が発生する恐れもある。そこで、はかりに加わる衝撃力や湿度、温度、紫外線などを検出するセンサーデバイスを開発し、IoT技術を活用することで、はかりに異常がないか常時監視し、計量精度を保証するサービスの提供をはじめています。」(田中氏)
新しい製品であれば、インターネットに接続して多様なデータを取得できる機能が最初から内蔵されているが、数十年間に渡り出荷された非常に多くのはかりには、当然、そのような機能はついていない。そこで、「正しい計量値をいかなるはかりでも提供するため」にデバイス開発から取り組んだというわけだ。
「あらゆる産業で人手不足が深刻化している中、常に正しい計量値であることを保証し続けるには、先進技術を取り入れて省力化していく必要があります。当社は、丁寧な仕事ぶりをお客さまからよく褒めていただきますが、これから生き残っていくには、それだけではいけないという思いが、さまざまな挑戦の原動力になっています」(田中氏)
田中氏がこう語るとおり、はかり×先進技術の可能性を追求して、新規ビジネスの開発にも積極的に取り組んでいる。たとえば、養豚の自動化もその一つ。豚は成長段階に合わせて飼育する部屋を大きくしていく必要があるのだが、現状では生産者が一頭ずつ体重を量り、部屋を移すタイミングを判断している。そこで、豚の体重を自動で計量し、移動すべきタイミングの豚を判断。大部屋へと自動でいざなう仕組みを複数の企業と共同で開発しているという。
「ゆくゆくは画像処理などAI技術も導入して、飼料の量や与えるタイミング、豚舎の温度・湿度なども自動で管理し、出荷額の高い、良質な肉質の豚の飼育をほぼ自動化できないかと考え、AIベンチャーなどと共に研究を始めています。このソリューションが完成すれば、国内だけでなく、海外への展開も視野に入ってきます」(田中氏)
はかりという単語からは、伝統的で保守的なイメージが想起されるかもしれない。しかし、少なくとも田中衡機工業所にそのようなイメージはあてはまりそうもない。
誰かの役に立つ、世の中のためになるという誇りを持って働ける会社
株式会社田中衡機工業所は、ベトナムの運輸省の依頼で過積載を取り締まるため、走っているトラックの積載量を量ることのできる走行計量装置を開発。ベトナム各地に20数カ所設置するプロジェクトを進めている。
「過積載は人の命にも関わる重大事故につながる、とても危険な行為です。しかし、ベトナムでは検問所を設置して積載量の取り締まりを行っても、警官が賄賂を受け取って見逃してしまうことが少なからず発生してしまい、なかなか取り締まれずにいるのが現状でした。そこで、ドライバーに気づかれることなく、走行中に積載量を量れる装置をつくれないかと当社に依頼がきたのです」(田中氏)
これはほんの一例だが、同社の社員には、「単に売れるものをつくればいい」という発想ではなく、このように誰かの役に立つ、世の中のためになる仕事に誇りを持っている人が多いという。
「戦争中、鉄が不足して民間から鉄の供出を強いられた時代も、『木製では強度が足りずお客さまの要望に応えられない』と鉄製のはかりをつくり続けたといいます。最終的には鉄製はかりの製造を国から許されることになるのですが、それまでには特高警察につかまったこともあったそうです。それでも、信念を曲げず、自分たちの仕事に誇りを持ち続けたDNAが、多少なりとも受け継がれているからかもしれません」(田中氏)
だから、新たに仲間として加わる人にも、この考え方に共感できる人がいいと田中氏は語る。
「それから新しいことに挑戦しようという気概のある人も歓迎です。業歴の長い会社ではありますが、古い考えに拘泥するよりも、変えるべきところは時代の流れに合わせて進化させていかなければならないと考えているので、アイデアや意見のある人、それを行動に移せる人ならやりがいを感じられる環境があります。おそらく、皆さんが思う老舗企業のイメージからは想像できないほど、『新しい取り組みをしたい』という声を応援する雰囲気のある会社だと思っています。もし、今いる会社でくすぶっていて、自分を出せていないと感じているなら、一度話を聞いてみませんか。お待ちしています」