設立1年目にVCから6,000万円の資金調達を受けるほど、将来性の高い業界
カスタマーサクセス管理プラットフォーム「HiCustomer」を提供している、HiCustomer株式会社。設立1年目にVCから6,000万円の資金調達を受けるほど、将来性が高く評価されている新進気鋭のスタートアップだ。
“カスタマーサクセス”とは、「顧客が自社の課題を解決し、成功することを導く」サービスを指す。“カスタマーサポート”がエンドユーザーからの問い合わせに受動的に対応するサービスであるのに対し、“カスタマーサクセス”はエンドユーザーのサービス利用状況に応じて能動的にアプローチする姿勢を指している。
同社が対象としているのは、SaaS型のB to Bプロダクトをサブスクリプション型で提供している事業者。こうした事業者においては、マーケティング活動を行ってユーザーを獲得し契約すればそれで終わり、ではない。プロダクトを使い続け、毎月使用料を支払い続けてもらう必要がある。一般的に新規ユーザー獲得コストは高くつくので、できるだけ長く使い続けてもらう“LTV”(Life Time Value)をいかに高めるかが最重要の施策となる。
ところが、プロダクトを十分に使いこなせなかったり、サービスに不満を感じるといった理由で解約するユーザーが出現する。苦労して獲得した労力やコストが水泡に帰す瞬間だ。
こうした事態を避けるために、定期的な連絡や、CRMやSFAなどのツールを工夫して施策を講じる事業者もある。しかし、それではエンドユーザーの利用状況を正確に把握し適切な対応を講じることは難しく、各事業者共通の悩みとなっていた。
「HiCustomer」は、プロダクトに接続することで、個別のエンドユーザーの利用状況を把握。エンドユーザーの“健康状態”を表すヘルススコアを「GOOD」「NORMAL」「BAD」の3段階で算出、プロダクト運営者への“見える化”を行う。その健康状態の基準は自由に定義・設定できる。これによって、「BAD」のエンドユーザーに個別にコンタクトして解約を防いだり、「GOOD」のエンドユーザーに対して割引サービスやアップセル・クロスセルの案内をするといった“カスタマーサクセス”施策を講じることが可能となる。そういった対象者を検知する独自アラートの作成機能もあり、運営担当者の「todo」を通知して着実な打ち手を支援する。
同様のプロダクトはほかになく、2018年12月に正式リリース後、1カ月で数十社が導入するという好調なスタートを切った。リリース前から対象事業者の悩みを共有するコミュニティをつくり、「HiCustomer」の認知度の向上に努めてきた成果も奏功している形だ。
“カスタマーサクセス・オーケストレーション”をコアとなって推進へ!
2017年12月に同社を創業した代表取締役CEOの鈴木大貴氏は、医療機器メーカーや情報サービス大手を経て、SaaS型B to Bサービスを手がけるスタートアップ向けのVCに転じ、4年間、投資業務に携わる。そこで、サブスクリプションモデルを採用するサービスが増える一方、同モデルを採用したSaaS型B to Bプロダクトが解約の憂き目にあうケースを注視した。
「近年、あらゆるモノが“所有から使用へ”“モノからコトへ”とサービス化する“サブスクリプション経済”が進展しています。SaaS型のB to Bプロダクトはまさにその典型で、このモデルを採用する事業者が急増しています。ところが、せっかくいいプロダクトをつくっても、使い続けてもらう努力をしなければ使われなくなるケースが多いことを肌で感じていました。そこにビジネスチャンスを見出したのです」と鈴木氏は同社創業の契機を説明する。
仲間に声を掛けるなどしてチームを立ち上げ、「HiCustomer」開発に着手。1年で正式リリースに漕ぎつけた。
同社が「HiCustomer」を通じて実現したいと考える世界観は、大きく2つあるという。SaaS型B to Bプロダクトのユーザーと、提供する側のそれぞれがよりハッピーとなることだ。
「『HiCustomer』のユーザーが増えれば増えるほど、ユーザー志向の事業者が増え、世の中に一層便利なサービスが増えることに繋がります。また、サービスを提供する事業者側としては、『HiCustomer』によって自らのサービスがユーザーに使われ、喜ばれている状況がより明確にわかるようになります。その結果、大きなモチベーションをもたらすことに繋がると思います」(鈴木氏)
当面の目標としては、2018年末までに100社のユーザーを獲得し、カスタマーサクセス管理プラットフォームとしてのデファクトスタンダードとなること。その先には、“カスタマーサクセス・オーケストレーション”の実現がある。鈴木氏は次のように説明する。
「カスタマーサクセスに隣接する領域に、マーケティング・オートメーションやCRMなどがあります。カスタマーサクセスには、エンドユーザーの利用状況というコアとなるデータが蓄積されます。そこで、カスタマーサクセスから隣接領域にバリューチェーンを伸ばすことで、LTVベースでマーケティング施策の評価を行うといった、より緻密で有効なマーケティング戦略が実現できるようになります。この、いわば“カスタマーサクセス・オーケストレーション”を、当社がコアとなって推進していきたいと考えています」
オープンにあらゆることを共有するカルチャーづくり
2019年1月現在、同社は鈴木氏含め2名のビジネスサイド、4名の開発サイドという計6名の少数精鋭体制。カルチャーづくりのポイントとしては、オープンにあらゆることを共有する環境づくりを挙げている。
「以前、システムの営業を手がけている時、営業と開発のコミュニケーションの在り方に問題を感じていました。クライアントに接する営業は、納品したシステムが評価される声も聞くのですが、それを開発に伝えることはなく、もっぱらクライアントが不満に感じて改善を求められた要件ばかりを伝えるのです。開発にしてみれば、楽しいことではありません。そのうち、営業が近づくと開発はガードを上げるといったスタンスになってしまうわけです。それでいいサービスが提供できるとは思えません。そうではなく、営業と開発がタッグを組んでクライアントの課題に取り組み、どう貢献できているのか、何が足りないのかを共有し改善に繋げなければなりません。ですから当社では、お客様の評価が透明性をもって全員に伝わる環境づくりにこだわっています」
その点、同社は顧客との距離感が近い。プライベートセミナーにユーザーを招いて講演してもらうといった機会を多く設けている。
「お客様に近い環境で仕事がしたいという人にはフィットしていると思います」(鈴木氏)
全員がプロダクトオーナーとなり、主体性をもって課題を把握し、追加機能や改善点の企画・開発・実装に取り組む。そんなカルチャーが形成されているという。
したがって、開発においてはスクラムの手法を導入し、2週間に1回機能をリリースすると定めてどんな機能をどんな優先順位で開発するかを全員で議論して決めている。これにより、短サイクルで多くの機能を実装している。
ビジネスサイドにおいては、100%インバウンドへの対応で商談を進めている。「LTVを高めるプロダクトだけに、きちんとした価値評価の上で導入してもらう丁寧なアプローチを心がけている」と鈴木氏。自社も「HiCustomer」を使ってユーザーの活用度合を把握し、きめ細かいフォローアップを行っているという。
経営状況の共有などは、毎月末に1時間程度のミーティングの場で行い、その後は軽食やアルコールも入れてカジュアルにコミュニケーションする時間をつくっている。
働き方などの制度はこれからつくるフェーズにあるが、「成果を上げやすくすることを第一に考え、時間や場所などは柔軟に決めてられるようにする」と鈴木氏は言う。
同社が迎えたい人材は、人の悪口を言ったり裏切ったりは決してしない“いい人”であり、スタートアップとして経営環境が変化する中、意欲的に学び続けられる人だ。
新しい概念の“カスタマーサクセス”のデファクトスタンダードを目指す同社。その中核メンバーとなれるチャンスが、ここにある。