パソコン、スマートフォン、スマートスピーカーに続く、次世代インターフェース「バーチャルヒューマンエージェント」
AI、IoT、ロボティクス、ブロックチェーン。これら最先端技術を組み合わせ、「バーチャルヒューマンエージェント」の開発を進めている、クーガー株式会社。
同社が当面取り組んでいるテーマの1つは、スマートホームやモビリティに代表されるデバイス連動の自律化。代表取締役CEOの石井敦氏は、次のように説明する。
「自動運転車やドローン、あらゆるデバイスがIoTで接続される時代が近づいています。それぞれのモビリティやデバイスが関連データを共有することで、全体制御や協調制御を行うことができ、事故や渋滞が激減するでしょう。また、家電やロボットとも繋がって全く新しいサービスが実現すると考えられます。この時、AI、IoT、ロボティクス、ブロックチェーンを組み合わせ、自律した世界における、デバイスやロボットなどの検索や状況予測、シームレスな連携が必要となり、そのプラットフォームとなるのがバーチャルヒューマンエージェント(VHA)です」。
この概念を実現させるためには、多方面の要素技術の開発を同時多角的に進める必要がある。現在は、自社開発プロダクトのAIラーニングシュミレーター「Street」の提供および様々な共同開発で収益を上げつつ、バーチャルヒューマンエージェントの開発を進めるという状況にある。「共同開発や提携のオファーは数多くあり、バーチャルヒューマンエージェントに繋がる領域のものを選択して行なっている」と石井氏。
例えば、これまで次のようなプロジェクトを手がけている。
●KDDI、KDDI総合研究所と共同で、国内初のEnterprise Ethereum(ブロックチェーン技術を利用した分散アプリケーションプラットフォーム)を活用した「スマートコントラクト」の実証実験。
●人間や物体・環境などを3Dモデル化し、その状態や行動をバーチャル空間でシミュレーションさせることで、AIにあらゆる状況を学習させることができるAIラーニングシミュレーター「Street」 の開発および本田技術研究所への導入。
●AI・ビッグデータを活用したKDDIの次世代パーソナライズシステムに関する技術コンサルティング。
●中部大学 MPRG(機械知覚&ロボティクスグループ)との「Deep Learningによるクラウド型映像認識エンジン」の共同開発。
●国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「次世代ロボット中核技術開発」にて、産業技術総合研究所が遂行している「次世代人工知能フレームワーク研究・先進中核モジュール研究開発」への参画。
●Amazon Robotics Challenge トップレベルチームとの共同開発および技術支援
目標は、世界のどこへでも30分以内で移動できるテクノロジー
発電所の制御システムの最適化や設計からキャリアをスタートさせた石井氏は、IBMグループでの製品開発などを経て2000年にライコスジャパンに入社、大規模検索エンジンやビッグデータ分析システムの開発・運用に従事。同社が楽天に買収された後、楽天とインフォシークの大規模検索エンジン開発を手がける。その後、モバイルの動画変換や配信技術を行うセーバーの技術統括に就任。同社の売却を機に次なるチャレンジとして独立し、クーガーを設立した(インタビュータブ参照)。
「デイリーで億単位のアクセスといった大規模検索エンジンの開発を手がけていた私の存在がゲーム業界でも知られていたらしく、ゲーム会社からゲームのバックエンドの設計やアドバイスをお願いしたいというオファーが次々と届いたのです。2010年から2014年にかけては、dangoの取締役CTOとして、国内トップセールスを記録した『マジモン』の開発にも携わりました。ゲーム開発は非常に複雑ですが、唯一40年以上前からAIを扱ってきた業界です。また、ロボットのゲームにおいては、バーチャル空間でのロボティクスが昔から行われています。こうしたところから、徐々にAIやロボティクスにアプローチしていきました」。(石井氏)
クーガーのメンバーにゲーム業界出身者が比較的多いのは、そういった経緯がある。「AIの世界トップとされるDeepMind社を創業したデミス・ハサビス氏も、ゲーム開発者出身」と石井氏は補足する。そうこうしているうちに、前述の共同開発や提携などのオファーが増加し、現在のテーマに辿り着く。
「AIもロボティクスもIoTも、データが最重要であるということに気が付きました。すべてはデータドリブンの世界であると。そこで、信頼性が担保される分散台帳システムであるブロックチェーンに着目し、並行して取り組むことにしたのです。これらの最先端技術は相互に作用しながら進化を続けています。ですから、複合的に扱う必要がある。ここに至って、AI、IoT、ロボティクス、ブロックチェーンを組み合わせて、全く新しいシステムやプロダクトを生み出すという、当社の特徴が明確になりました」。(石井氏)
モビリティに興味を持つのは、昔から“移動”が人類の大きな問題であったからだという。自動車の内燃機関や鉄道、飛行機が発明されて、人類は劇的に早く、遠くまで移動できるようになった。そのモビリティの次なる姿は、自動運転・自律化。そして、石井氏の視点はさらにその先にまで向かっている。
「世界のどこへでも30分以内で移動できるテクノロジーを開発したいと考えています。夢物語と言われますが、追いかけていきたいですね」
前例のない最先端の領域を追求している企業カラーは「率直なテクノロジー追求集団」
前例のない最先端の領域を追求している企業だけに、同社の企業風土は「率直なテクノロジー追求集団」というカラーが強くある。石井氏は次のように説明する。
「新規性が極めて高いプロジェクトの場合、一定期間取り組んで成果が出なくても、その詳細な理由を求めるといったことはしません。うまくいかなかった理由が簡単にわかるようなものならチャレンジする意味がありませんし、責任を取るように報告書にまとめても、モチベーションが下がるだけで何の効果も無いと考えるからです。ならば、次の試行錯誤に早く移ったほうがいい。当社では、3カ月やって成果ゼロ、というプロジェクトがザラにあります」。
一方、再現性の高いプロジェクトでは、高い精度で見込みや予測を出し、スケジュールを管理して厳密に進めている。
石井氏は「Blockchain EXE」というエンジニアコミュニティを主宰していることもあり、ブロックチェーン開発に関わる他社のエンジニアなどとの交流機会も多いことは、魅力の一つだろう。石井氏のマネジメント・ポリシーは、年齢や経験は一切気にしないということ。「誰が何に詳しいかはわからないので、常に教えてもらう姿勢で接している」と言う。
そんな石井氏の人材観には、「ありのままでいい」というキーワードがある。同社の企業風土は「超フラット」ということだ。
「ITベンチャーには、社員に明るく元気に振る舞うことを求めているところが多いのではと思います。当社では、そういったことは一切ありません。暗い人は暗いままで構わない。また、過度に社員が仲良くなることも求めていないので、取って付けたような親睦イベントの類もありません。社員同士は、サッカーの強豪チームのように遠慮なくぶつかり合っています。現に、私の発言をとらえて『そんなくだらないアイデアでは全く通用しないよ』とメンバーに指摘されることも日常茶飯事です」。
社会を変えるインパクトのある研究開発を手がける同社。常に最新の情報や知見に積極的にアクセスしつつ、先が見えない、不確実なプロジェクトでも楽しみながら取り組める人ならば、これほど刺激的な環境もないだろう。