“手づくり感”を大切にする職人たちのメディア工房
『J-CASTニュース』――ネットから情報を集めている人にとって、この単語を目にすることは“当たり前”になりつつある。株式会社ジェイ・キャストが、同ニュースサイトを立ち上げたのは、2006年7月のこと。新聞の速報性と雑誌の深堀を兼ね備えた「1.5次情報」と、読者が記事にコメントすることによって記者と双方向でコンテンツをつくるという新しい仕組みが支持を集め、開設の翌年には1000万PVを達成。現在では、月間1億1000万PV、ユニークユーザー1900万を集めるまでに成長している。
扱う情報についても、ニュース以外にテレビのオススメ番組や批評が読める『テレビウォッチ』、ビジネスネタや金融情報などを発信する『会社ウォッチ』、世界的な流行をカバーする『トレンド』、健康・美容情報を扱う『ヘルスケア』とチャンネルを増やしながら拡充してきた。
「J-CASTニュースで配信する情報は、どこかからコピペしてきたものをそのまま取り上げるといったものではありません。きちんと著作権管理を行っているだけでなく、どの情報を取り上げるかというところから記者が吟味し、さらに、知的刺激や読み物としての面白さをまぶしたうえで提供しています。この“手づくり感”が、読みたいと思ってもらえる記事づくりにつながっており、広く支持をいただいているのだと考えます」(代表取締役会長・CEO・蜷川真夫氏)
国内の主なポータルサイトのほぼすべてにニュースを配信するなど、現在、配信先は20以上にのぼる。また、47都道府県ごとの地域と街のメディア『Jタウンネット』、オトナ女子向け買い物&おでかけメディア『東京バーゲンマニア』、新しいエイジングのカタチを伝える『エイジング スタイル』などニュースサイト以外のメディアも運営。
最近では、ユーザーがオリジナルのクイズや診断を作成して投稿(出題)できる『トイダス』というクイズプラットフォームも提供している。これが、SNSとの相性の良さも相まって、月間150万PV、月間ユニークユーザー50万人を集めるコンテンツへと成長しているのだ。
「これらメディアをつくるためのスタッフとして、当社には、記者や編集者、デザイナー、エンジニアが社員として在籍しています。彼ら彼女らは、日々、協力しながら、『もっと、読んでもらえる記事を、役に立つ情報を』と切磋琢磨しています。そのためでしょうか、それぞれの分野のプロフェッショナルである職人が集まり、コツコツとメディアをつくりあげていく“メディア工房”のような雰囲気があります」(蜷川氏)
紙メディアのプロが集まり、 誕生したジェイ・キャスト
株式会社ジェイ・キャストでは、メディア事業の他、eラーニングの設計・運営を行うラーニング事業やWebサイトの企画・編集・制作、カスタム出版などを行う受託事業を展開している。これらは、同社設立からJ-CASTニュース誕生までの10年弱、経営を支えた事業でもある。
代表取締役会長・CEOを務める蜷川氏は、元朝日新聞の記者だった。社会部やニューデリー特派員として活躍した後、週刊朝日副編集長やAERA編集長などを歴任した、いわばメディアのプロである。それだけに、1997年、新聞社出身のメンバーが集まり起業した当初から、「自社でネットメディアをつくりたい」という思いを持ち続けていた。
「これからネットが主となる時代がくる。その流れからは、メディアも逃れられない――そう感じてはいたものの、当時、紙メディアからネットの世界へ移ろうとする人は、ほとんどいませんでした。それなら、自分たちでやろう、と。しかし、当時のネット環境がそれを許さなかったのです」(蜷川氏)
97年といえば、Windows95が発売され、インターネットという言葉がビジネス界で浸透しだした頃であり、翌年発売されたWindows98によって、インターネットが世の中へ急速に広がっていくことになる。しかし、当時のネット環境は脆弱で、画像を送ったり、表示したりするのに長い時間が必要だった。日々、情報を獲得するメディアとしてネットが利用されるようになるには、ブロードバンドの普及まで待たなければならなかったのだ。
ただ、設立からJ-CASTニュース創刊までの時間は無駄ではなかった。Web制作やeラーニングが事業として確立するために必要な時間となったし、そこで培ったITメディア独特の表現方法など、ユーザーに受け入れられるコンテンツづくりやネットメディアビジネスに関するノウハウを蓄積する時間にもなったからだ。もしかしたら、創刊2年目から黒字化を達成できたほど、ユーザーの心をつかめたのは、この時間があったからかもしれない。
今後もメディア事業、ラーニング事業、受託事業は継続していく。メディア事業では、各メディアの売上やPVの拡大、ジェイ・キャストらしいラインナップの充実を図り、ラーニング事業では、蓄積してきたノウハウを情報としてコンシューマ向けに配信するサービスなども考えているそうだ。そして、これら構想を実現するため、技術面でメディアを支えるエンジニアを求めている。
蜷川 真夫氏
社会的影響力の高いメディアづくりに携わるやりがい
株式会社ジェイ・キャストの社内に入ると、若い社員の多さに驚かされる。70名ほどの社員のうち半分が20代であり、毎年3、4名ずつ新卒採用も行っているという。年齢の近いメンバーが多い分、良い意味でのライバル心が生まれ、社員同士が互いに高め合う雰囲気がある。
「1年先輩、1年後輩がいることは、教育の面でもメリットがあります。自分が先輩から教わったことを次の世代に伝えていこうといった循環が生まれています。教え方も手とり足とり丁寧なので、1年も経てば、見違えるほど成長できますよ。一方、ベテランたちは重しの役割を果たしており、大きな責任が伴うメディアに携わるうえでの考え方や取り組み姿勢をきっちり指導しています。もちろん、彼らからも長年の経験に裏打ちされたノウハウを教わることができます」(蜷川氏)
同社が手掛けるメディアの知名度や影響力からは想像できないほどの少数精鋭体制であるため、一人ひとりの裁量が大きいのも特徴だ。また、情報を扱うため、昨日とまったく同じ仕事というものがない。次々と生まれる新しい情報をいかにユーザへわかりやすく、興味深いものとして伝えるか、日々、工夫が求められるのだ。
「その手作り感、クリエイティブさに面白みを感じられる人でないと務まらない仕事だといえます。それはエンジニアも同様です。与えられたシステムを言われるがままつくっていても楽しくないでしょう。記者や編集者が必死に考えた企画をWebなどシステム上で再現するために工夫を凝らし、より良い方法を追求できることが必要です」(蜷川氏)
また、「世の中をびっくりさせたいと思っている人も、向いている」と続ける。
「当社のメディアは、ネットの世界では老舗であり、おかげさまで知名度もあります。知名度の高さは、経済効果につながっており、その分、社会に対する影響力もある。それだけ注目されているメディアですから、ときに世間を驚かせるような記事を生み出すことも。そのシステムづくりに自分も携わっているのだというプライドを持ち、そこを楽しめる人だとやりがいを感じられるのではないでしょうか。また、これだけのメディアをつくりあげたエンジニアという実績は、将来、きっとプラスになるはずです」(蜷川氏)