株式会社Zpeer

動物医療にイノベーションをもたらすプラットフォームを目指し、積極的に事業を推進している企業がある。獣医師同士、あるいは獣医師と製薬企業等を繋ぐ獣医師向け専門メディア『Vetpeer（ベットピア）』を運営する株式会社Zpeer（ズピア）だ。

日本には約16,000名の伴侶動物の獣医師が在籍し、動物病院は12,000施設に上る。そのうち約70%に当たる8,000施設が1～2名で運営されており、獣医師が一人だけという動物病院も珍しくない。結果として、業界全体で獣医師同士のコミュニケーションが不足し、情報交換や学びの機会が限られている。さらに、動物病院のIT/DX化は進んでおらず、長時間労働・低収益といった構造的な課題も重なり、獣医師を含む動物医療従事者の孤独と疲弊が深刻化している。

その課題解決を目指すのが、獣医師向け専門メディア『ベットピア』である。

「『ベットピア』は、動物病院で働く獣医師や看護師、ケアスタッフが利用できる会員制オンラインメディアです。動物医療に関する最新情報を提供するだけでなく、Webセミナー開催等、会員同士がコミュニケーションできる場でもあります。完全クローズドなコミュニティなので、安心して情報交換ができます。獣医師向け動画配信サイト『ベットスコープ』では、専門知識に秀でた獣医師を講師に招き、オンラインレクチャーを行っています」（代表取締役・森野俊哉氏）。

2013年のサービス開始以来、『ベットピア』は着実に成長し、現在では獣医師の約8割に当たる約13,000名が登録する、日本最大級の獣医師専用コミュニティサイトへと成長した。そんな同社が展開するのは、会員データを基盤としたデータベースビジネス。動物医療関連企業・団体に対し、製品・サービスの販売支援、マーケティング支援、市場調査、製品開発支援、コンサルティング等、多様なサービスを提供している。

「当社は製薬会社や医療機器メーカー等をクライアントにしたビジネスモデルを採用しています。『ベットピア』の会員データ活用や広告アプローチでマネタイズしています。製薬会社や医薬品卸企業の営業担当者が動物病院を訪問する際、動画で獣医師に医薬品や医療技術を説明できるツール『ベッツゴー』も開発・提供しています。営業担当者と獣医師のコミュニケーションを円滑にするためのソリューションです。医療業界におけるエムスリーをベンチマークにしており、その動物医療版を構築したいと考えています」（森野氏）。

動物医療従事者向けプラットフォームの運営を通じて、動物と関わるあらゆる領域に価値提供する企業を目指している同社。獣医師向け専門メディア『ベットピア』と動画配信サイト『ベットスコープ』の運営を通じ、孤独になりがちな獣医師に情報収集と業界内交流の場を提供している。

同社はもう一つ、動物向けの新しい機能性プロダクトを広げる事業も展開している。これまで国内では販売されてこなかったユニークな機能性プロダクトを、動物病院や飼い主向けのECサイトを通じて届けている。

「当社が運営する『アニマート』は、動物病院専売製品を動物病院や飼い主が購入できるECサイトです。サプリメントや医療資材等、国内では販売されてこなかった新しくユニークな機能性プロダクトを取り揃えているのが特徴です。また、動物用の各種製品を専門家である獣医師が使用し、レビューを投稿するサービス『ベッツアイ』も手掛けています。ペット向け製品が溢れる中、専門家の意見は自身の犬猫のために良い製品を選ぶ一助となります」（森野氏）。

同社が動物医療に関する多様なサービスを開発・提供している背景には、日本の「動物医療業界/獣医師」のレベルアップを図り、動物病院で働く人達が他業界と同等以上に働きやすくなる仕組みを作りたいという強い思いがある。

「動物病院はIT化が遅れています。“人”の医療業界と比較すると20年ほど、アメリカの動物医療業界と比較しても同じく20年ほど遅れています。IT化が遅れていることで、現場のアナログな作業が獣医師の長時間労働を生み、その結果として獣医師は疲弊し、給与も低い状態になっています。様々な『仕組み』が整っていないからです。そんな動物医療/獣医師の業界に対して、当社が先頭に立って課題解決をしていきたいと思っています」（森野氏）。

同社の最終的なミッションは「日本全体の幸福度」を上げること。未婚率が上昇し、動物が家族の役割を果たすようになった現代において、動物医療の質向上は社会全体の幸福度向上に直結する。同社の事業が成長することで、動物医療業界がレベルアップし、獣医師が幸せになれば動物の寿命は延び、動物とその家族が共に過ごせる時間も長くなる。

「当社は日本で最も獣医師のニーズを汲み取れるポジションにいます。しかも、日本でダントツ、かつ唯一無二です。日本の動物医療は、実は外資系製薬会社に支えられています。当社の事業が順調に成長すれば、サプリメントや製薬の開発に着手することも夢ではありません。あらゆる角度から動物医療業界の成長に貢献し、獣医師の幸せを創出できれば、その先でエンドユーザーである動物と動物の家族が一緒にいられる時間を長くできる。動物とその家族の幸せをも創出できると信じています」（森野氏）。

2013年に設立された同社。創業者は外資系大手製薬会社出身のビジネスパーソンで、製薬会社と獣医師を繋ぐプラットフォームとして、獣医師向け専門メディア『ベットピア』を立ち上げた。

2023年8月、同社は新たな代表取締役として現任の森野氏を迎え入れた。東京にある大学の農学部卒の獣医師でありながら、新卒で大手総合商社に入社し、東南アジアで病院経営に携わった異色のキャリアの持ち主。その後、スタートアップで動物病院の立ち上げ・経営・運営に従事した経験を持つ。

「幼少期から動物と触れ合うことが多く、物心ついた頃から獣医師になりたいと思っていました。大学で動物医療を学びましたが、IT・DX化が進んでおらず、非効率な経営をしている動物病院の実態を目の当たりにし、動物医療の前に病院経営の課題解決が必要だと気付きました。大手総合商社が東南アジアで病院グループに参画し、新規事業として立ち上げると知り、新卒で入社しました。その後、縁あって引退する創業者から当社を受け継ぐことになり、動物病院の経営を支える仕事をすることになりました」（森野氏）。

新体制の発足に伴い、グローバルでの投資経験を持つベンチャーキャピタルファンドから経営支援を受け、2024年5月には約5.5億円の資金調達を実施。借入を含む累計調達額は約10億円に達した。調達した資金を活用し、プラットフォームの強化や先進的な製品・サービスの開発を加速させている。

「2025年6月にマッチング型の求人求職サービス『キャリアマッチ』の提供を開始しました。動物病院における人材採用の課題と、獣医療従事者のキャリア選択を支援するサービスです。小さなクリニックが大半の動物病院では、結婚や出産等のライフイベントで現場を離れた獣医療従事者が戻る場所がなく困っています。他方で動物病院は慢性的な人手不足。一般的な求人サービスでは難しいマッチングを、『ベットピア』の運営で培ったネットワークと知見を生かして実現させます」（森野氏）。

そのほかにも、新規事業の計画が次々と動き出しており、事業創出とグロースを担うエンジニア・ビジネスパーソンを広く募集している。

「創業者達が築いた資産を受け継ぎ、その土台の上でスタートアップを築いている感覚で事業を進めています。若手のエンジニアやビジネスパーソンにもぜひ参画してほしいと考えており、絶賛採用強化中です。ベンチャー並みのスピード感で動いており、痺れるビジネス体験ができる環境です。動物好きのメンバーが集まった会社なので、社風はとても穏やか。ペット同伴OKで、オフィスにはいつも誰かのペットがいて、時には犬がMTGに参加している、そんな会社です」（森野氏）。