株式会社アイノグラフィックス

販売促進ツールや広告、パッケージ、アプリなどの企画、デザイン、開発を手がけている株式会社アイノグラフィックス。特に、ソニー・ミュージックコミュニケーションズとの関わりが長く、音楽・ゲーム・映像などのソフトウェア商品のパッケージやPOPなど、数多くの各種印刷加工物の企画・デザインから印刷前のプリプレス工程までを一貫して手がけてきていることが特徴的だ。

そんな同社は、このほど、新規事業として“食”をテーマとした自社オリジナルのWebメディアサービス事業を立ち上げることになり、その企画・開発から運営までを手がけるメンバーを求めている。

同社の始まりは、オリンピックが商業化に舵を切った1984年のロサンゼルス五輪にさかのぼる。同地で制作事業を手がけていた創業者の井上好之氏は、大手広告代理店の要請を受け、大量の印刷物を作成するデジタル制作システムを構築しビジネスの成功に貢献。その実績で、ロサンゼルスの大手レコードレーベルとの業務契約獲得につなげた。

その流れで、1993年にソニー・ミュージックコミュニケーションズから、日本でのデジタルグラフィックススタジオの立ち上げへの協力を要請される。翌1994年の「プレイステーション」発売に伴い、ゲームソフトのパッケージや取扱説明書など印刷物のフルデジタルデザイン・製版による高品質・短納期の制作体制を構築。年間約500本という膨大な数のタイトルリリースに貢献した。そして、翌1995年にアイノグラフィックスを設立し、ソニー・ミュージックグループからの業務委託を本格化させる。

以来、徐々に他の分野へも業容を広げる。1998年には早くもシリコンバレーにネットビジネスの技術開発拠点を開設。1999年には、ネット経由でCD-ROMの情報更新を行う「パロマーJシステム」（後に「FLYING DISK」に名称変更）をリリースする。
しかしながら、音楽のネット配信やネットゲームの普及とともに、音楽CDや家庭用ゲームソフトの売れ行きが停滞・下降を始める。そこで同社は、コスメや教育機関、商業施設などにビジネスフィールドを見出し、展開を始めた。

「10年以上前から、エンターテイメント分野の退潮に危機意識を持っていましたが、当社に限っていえば一定の仕事量を確保していたので新分野の開拓にはなかなか手が回らなかったのです。しかし、社長が私に交代となることを機に、新規事業の開発に踏み切ることを決断しました。既存事業がまだ安定的に収益を上げている間に、次の柱を確たるものにしたいと考えています」と、2014年6月に2代目の代表取締役社長に就任した木村有希氏は力を込める。

同社の強みは、まず、画像原稿を高品質の印刷物に仕上げるレタッチなどの技術工程から、デザイン、そして印刷工程に渡す製版業務（プリプレス）までの工程を一貫して手掛けられるところにある。これとともに、コンテンツを一元管理することで、一つの原稿をWebやパッケージなど様々な制作物に展開する“ワンソース・マルチユース”を推進。これらにより、制作時間やコストの削減とビジュアル・アイデンティティの統一を可能とし、クライアントの省力化とともに製品・サービスのイメージアップに貢献しているのだ。

ソニー・ミュージックコミュニケーションズの仕事で蓄積したこうしたノウハウを活用し、JR系商業施設のPR誌やチラシ、コスメの販売現場の販促物、教育機関の入学案内などの印刷物の制作や、デジタル技術を活用して出版社のアプリを開発するなど、幅広い分野の業務に結びつけている。

「ですが、私は当社の本業であるこの既存分野に拘泥はしていません。もちろん、デジタルサイネージや電子出版などさらなるデジタル化の波に対応させて大事に発展させていきます。しかし、それ以上にこの既存分野が生み出す収益を基盤として、新規事業の確立に注力したいと考えています」と木村氏。

木村氏が目下、経営企画室リーダーの井上健氏とともに進めている新規事業は、前述のとおり“食”をテーマとした自社オリジナルのWebメディアサービスだ。エンジニアでもある井上氏は、中学時代から“食”に興味を持ち、データベースをつくり始める。今日ではプライベートで数多くのグルメ仲間が集うコミュニティを運営しているという“食”のマニアだ。

「この分野で相当な知見を持っている井上主導でサービスを開発していきます。それだけでなく、東京同様、世界中の“食”が集まるロサンゼルスのオフィスも情報拠点として活用し、ワールドワイドなグルメ情報を収集・加工できるようにしていくことを考えています」。

そう話す木村氏は、この新規サービスを2020年の東京オリンピック開催までにグローバルな存在にすることを目指すという。来日する外国人が一気に増えるタイミングに、万国共通の関心テーマである“食”の情報を介して世界を繋げようという思いだ。

「人は一生で約8万回の食事をすることになります。人は誰でも食事なくして生きることはできません。誰でも食には関心があると思います。そう考えると、1回の食事でもムダにできないはず。ですから、食の情報には非常に大きな可能性があると確信しています」と井上氏は力説する。

同社の社員数は約70名。本社のほかに、ソニー・ミュージックコミュニケーションズはじめ、大手化粧品会社や教育機関などに常駐して業務を手がけるチームに分かれている。各チームリーダーは、隔週で集まって各現場の状況を共有。制作物なども共有し、品質向上や効率化に繋げている。さらに、各現場ではOJTやローテーションを通じてスキルアップに力を入れている。その背景には、木村氏の次のような思いがある。

「デザイナーという職業はかっこいいように思われているかもしれませんが、場合によっては“オペレーター”的な業務を強いられるケースも少なくありません。そういった業務では、付加価値が認められにくいのが現実です。そこで、当社では、オペレーターはクリエイティブなデザイナーに、デザイナーはさらに企画も考えられる存在に、といったように、全員がワンランク上を目標にステップアップに取り組んでいます。こうして実力をつけることで、クライアントから『企画から頼む』といってもらえる代え難い存在となれるのです。そして、現在50％程度のクライアント直取引を限りなく100％に持っていくことで収益性を高め、給料をもっと増やしていきたいと思っています」。

このように実力をつけてこそ、自社サービスが大きく花開かせることができるという思いもあるのはいうまでもない。

そんな同社が新たに迎え入れる人材に求める点について、木村氏は次のように言う。
「まずは“食”に興味がある人ですね。興味があれば、自然と会話も弾むでしょうし仕事も楽しくなると思うからです。そして、“歯車”となってしまう大手企業ではできない、新しいサービスに一から全面的に関わってつくりあげることにチャレンジしたいという人に来てほしいです」。

36歳の木村社長に若返り、自社サービスにチャレンジを始めた同社。そのスタート段階からジョインできるチャンスは今、である。