クラウド型文書管理システム『Agatha』で治験や臨床試験をDX化する
「コロナでリモートワークとなり、会社にも出勤できず病院にも訪問できず戸惑いました。しかし『Agatha』を導入していたおかげで、臨床試験に支障が出ることなく、無事に進めています」
2020年の春にアガサ株式会社に対して、製薬会社から実際に寄せられた感謝の声である。このことは同社が行っている事業によって「新たな医薬品が日本で認可される」機会を“停滞させず、促進させた”という、目には見えないが大きな社会的な貢献を行った一つの事例である。
アガサは、医療機関・ライフサイエンス業界向けの『クラウド型文書管理システム“Agatha”』を提供する企業である。特に“治験・臨床研究の文書”の一元管理を目指しており、2020年からのコロナ禍によるワークスタイルの変化によって同サービスは注目を集め、飛躍的にユーザー数を伸ばしているところだ。
『Agatha』を利用する法人は主に医療機関と製薬会社であり、医療機関にとっては、治験・臨床研究の大量の紙をなくしペーパーレス化を実現できること、製薬会社にとっては文書に関わる全てのプロセス(作成、共有、レビュー、承認、保管)を一貫してクラウド上で行うことができるのが魅力だ。
「例えば、日本では治験を行う場合に申請してから実際に治験できるようになるまでに2~3カ月かかります。ところが、アメリカであれば申請から治験まで1週間程度で実施できるわけです。この数年のコロナ禍でも経験しましたが“こんな薬があれば良いのに、まだ開発が進んでいない”といった事態に対し、IT化することで少しでもスピードアップに貢献していきたいと考えています」(代表取締役社長 鎌倉千恵美氏)。
実際に『Agatha』導入で、従来は治験に関わる工程で70工程だったものが20工程へと削減に成功したという。
現在、同社サービスを導入している法人には、京都大学、名古屋大学、がん研究会有明病院といった最先端の研究を行う病院・大学や、旭化成ファーマ、富士薬品等の大手製薬会社、治験の支援を行う団体等、1,200以上が名前を連ねる。
ユーザー数は約2万人であり、治験・臨床試験に携わる約30万人というマーケットに対して、7%ほどが利用している。医療業界は法制度や個人情報を扱うことによってDX化を進めにくい分野であったことを考えると『Agatha』は業界へ大きく貢献していると言えるだろう。この波に乗って今後のシェア拡大にも期待できる。
治験に関する書類の山…「IT技術で解決すべき」という一途な想いがアガサをつくった
同社の設立と『クラウド型文書管理システム“Agatha”』のサービス実現には、創業メンバーの並々ならぬ想いがあった。
鎌倉氏は学生時代から一貫して情報通信を学び、大卒後は行政機関の内部部局に勤務、その後は電機メーカーで製薬・医療機関向けのソリューション開発に携わっていた。そのエンジニア時代の2007年頃、ある病院を訪れた時、治験や臨床試験に関する書類の山を目の当たりにした。聞けば、治験に関する書類は1病院当たり年間2tトラック1台分もある。一つの医薬品に関して治験を行う病院が複数あり、その先の関係者も多い。例えば500枚もの申請書類を委員20名に配布する。山積みになった書類を処理する煩雑さは、想像に難くない。
2007年当時、治験に関する文書管理システムを提供する場合、数億円といったエンタープライズ向けのサービスなら実現可能だった。しかし、これでは一般の病院・クリニックがすぐに導入できる金額ではない。「なぜIT業界にいるのに、ITで解決できないのか。できるべきではないのか?」と悔しく思ったことが、現在にも繋がる原動力となったと鎌倉氏。
鎌倉氏は製薬企業向け文書管理システムを開発するアメリカの企業で、日本支社長に就任したが、その際に「ITで医薬品開発を支えたい」という想いを抱く仲間と出会った。こうして2015年、セキュリティー問題に厳しい金融業界でも徐々にクラウド化が浸透してきたことから、医療業界のクラウド化も本格スタートできるということで、国内外の仲間と共にアガサのサービスを事業化したのであった。
クラウド型文書管理システム『Agatha』の特長については、第一に「直感的に利用できること」が最大の特長だという。医師や製薬会社といったITの専門家ではない方が、入力作業で煩わされることなく、簡易に操作できるようにしている。
第二に「ER/ES指針、Part 11」という、電子記録・電子署名に対する信頼性を確保するための政府の指針に則っていること。しかも世界的な基準に対応しているため、『Agatha』は日本発・欧米各国向けサービスとして展開できる。
第三に、日本語・英語相互に対応可能であること。競合する医療向け文書管理クラウドサービスには「製薬会社向けには英語、病院向けには日本語」と二つのレイヤーで対応しているケースが通常である。しかし、同社の場合にはグローバルメンバーが当初から開発に携わっており、シームレスに対応可能だ。
最短1日で導入してすぐ使える手軽さと、上記のような点において、競合のサービスに対してアドバンテージを誇っているわけである。
カスタマーサクセスを目指す=多くの方の健康に寄与できる。その感動を味わえる仕事
これまでの同社サービス導入による成功事例については、鎌倉氏によると「多すぎて答えられない」とのことだが、あえて一つだけ紹介してもらおう。
コロナワクチン開発・接種に対して日本中の期待が集まっていた2020年後半のこと。ワクチンの治験時に、アガサのCS(カスタマーサクセス)メンバーが中心となって支えたことがあったのだという。治験の第一段階だったが、20~30の病院で『Agatha』のシステムを使って進めていたが、「明日までに何とか資料を作成したい。助けてほしい」という依頼があった。その際に「この情報を共有できる範囲の設定をするには…」といったセキュリティー分けについて支援する等、全社で一丸となって治験の成功に向けて動いたのだという。単にシステムを提供するだけでなく、人の命に関わる医薬品の研究に対して、現場へ直接貢献できたということは、アガサのメンバーにとっても感動的な瞬間であった。
ITによって治験・臨床研究を変えるという長年の構想を『Agatha』によって実現した今。これからのビジョンについては、まず2024年までにユーザー数を(潜在層を含めた)マーケット30万人のうち3~4割ほどの10万人にすること。他の治験向けサービス企業とのパートナーシップを結び、多くの医療機関にサービスを展開すること。さらには海外向けのサービスが現在3割、国内向け7割だが、グローバル向けを強化して海外7:国内3とすることを目指していく。
海外製品を日本に導入するのではなく、日本発の製品でグローバルに市場を席巻していく…そんな近い未来を築いていくためにも、新たな人材を求めている。
「現在のメンバーは45名程度で、海外にもメンバーがいるため、設立当初からリモートワークが通常です。そのうち女性が半分程度を占めており、IT企業としては珍しいかもしれません。自宅でも仕事ができるということから、お子様がいるけれど自己実現したいという女性も在籍しています」(鎌倉氏)。
リモートワークであるため、自己管理能力が必要であるが、ワークライフバランスを大切にし、仕事も家族も大切にしながら働きたいという方には最適な環境である。「管理される」という窮屈さもなく、自分でスケジューリングして成果を出していくというスタイルだ。
日本発の技術で、世界中の方々の病気の治療に貢献してみたい方、グローバル企業のコアメンバーとして活躍したい方、まずは応募してみてはいかがだろうか。