脳の活動状態を示す“脳波”を、より簡易に、日常的に測れる世界
PGV株式会社は、脳波を正確かつ簡易に計測できるセンサ本体やソフトウェアの開発を軸に事業展開する大阪大学発のベンチャー企業だ。革新的な「パッチ式脳波センサ」を脳の「翻訳機」として活用し、さまざまなことに役立てようとしている。会社設立は2016年9月で、東京・日本橋に事務所を置く。
PGVという社名は、「Perpetual Gratitude & Voyage」の頭文字からとられた。「過去への感謝、未来へ挑戦」という想いが込められ、日本技術の底力を、広く世界へ発信することを目指す。日本に蓄積された基礎・応用の優れた技術の数々がビジネスとうまくかみ合う仕組みさえあれば、大学発のベンチャー企業は、もっと成功例を積み重ねることできる。
一般家庭に広く普及している体温計や血圧計のように、脳波を手軽に計測できる世界を、PGVは見据えている。「脳のセルフケア」を各家庭でできるようになれば、一人ひとりが個性や性格にあったセルフケアをすることで、ヒトの可能性が最大限に引き出される。自分自身の理解が深まれば、より大きな自らの可能性を引き出せるのではないか――。そんな新たな「内なる自分」の発見が、世の中の未来を切り拓くとPGVは信じている。
PGVは、伸縮性の高い電極シートを用いた高精度な微小信号計測エレクトロニクス技術を根幹に、独自のビジネスモデルを確立。未だ多くのことが未解明のまま残されている“脳”の秘密に迫る。パッチ式の脳波センサは、企業のマーケティングから医療分野まで、さまざまな分野で活用されるポテンシャルを秘めている。繊細かつ複雑なヒトの脳機能を解明し、頭の中に広がる“自分”を知ることを通じて、セルフケア・ソリューションや関連技術の開発につなげていく。
計測が困難なものを可能にする新たなデバイスと、その先の未来
“脳波”をコアとするビジネスモデルは、「自分自身をもっと知りたい」という遊び心からはじまった。何をしている時に一番集中できるか、どのようにしたら快眠を得られるか、といった身近な視点から構想が広がり、そこからビジネス展開や社会実装にまでつなげていくユニークさを持つ。まさに、サイエンス(科学)とアート(芸術)を融合した技術であり、これまでに無い技術を活かしたビジネスモデルといえるだろう。
PGVの「パッチ式脳波センサ」は、重さ27g、解熱用の冷却ジェルシートのように簡単につけることができ、伸縮性が高いため容易に剥がれず皮膚の凹凸に依らずぴったり張り付くことができる。ワイヤレスで脳波を測定することができるため、体温計や血圧計のように、脳波を手軽に取得できる。センサの開発では、医師と議論を重ね、「簡単に使えること」、「使いやすいこと」に重点を置いた。
「パッチ式脳波センサ」のシートは、伸縮性の高い基板をベースとし、電極配線を形成するインクを印刷することで製造されている。印刷インクには、金属粒子と有機材料の複合材料が使用されており、伸縮性が高く引っ張ると最大300%伸び、手を離すと元に戻る。端子部分はカーボン材料を使用し、センサとの接点部分は固く、皮膚との接点は柔らかくなるように、硬さにグラデーションを付けた設計となっている。
脳波の解析技術・センサのみならず、電極材料やアナログ回路、システム面まで自力で開発した点は、PGVの特色・強みだ。
現在、認知症患者の脳波測定や、睡眠状態のモニタリングなどのプロジェクトが進行中。前頭に貼るだけで脳波を測定できるため、認知症患者の判定や、睡眠改善ソリューションなどが期待されている。
PGVは、脳波センサを用いたソリューションの提供を進めている。例えば、自分も気づいていないようなモノの好みを脳波の動きで把握したり、脳波から自分の感情の動きを知り自分に合ったサービスや製品に効率的に巡り合えるようになったり。企業からの引き合いは強く、主に衣食住に関係する消費財企業からの注目を集めている。
将来的には、言葉でコミュニケーションできない乳幼児の感情を把握し、一番付け心地のいいオムツを特定できるようにもなることも期待される。
社会的課題に応える、共存共栄のコミュニティ・モデルをつくる
医療やビジネスなど幅広い用途が想定される「パッチ式脳波センサ」だが、現在は、大学などの研究機関や企業へ貸与している。また、2020年内の医療機器認定の取得を計画しており、大学等と共同研究契約を締結し、認定取得後に臨床研究を加速する考え。
「パッチ式脳波センサ」は、“ニューロリサーチなど、ビジネスへの応用も可能だ。“ニューロリサーチ”とは、脳科学をマーケティングに活用する手法で、医療分野ほどハードルが高くなく、小規模からの展開が可能なため、さまざまな企業と連係して事例の蓄積を進めている。例えば、映画を見ている観客にセンサを装着し、脳波の動きを観測することで、その映画の興奮や喜び、感動などを数値化する。これを応用すれば、より素晴らしい映像を製作できるようになるだろう。
PGVはセンサなどのデバイスだけでなく、その分析アルゴリズムまでトータルに提供している。しかしながら、自社のみで開発から販売までのすべてを手がけることは難しい。今後は、医療機器メーカーへのライセンス供与をおこないながら、開発・生産体制を整えていくことも構想している。
PGVの求める人物像は、脳波を通じて新たな世界を築き上げたい人、センサデバイスや機械学習に強い関心がある人、ベンチャー企業で精力的に働きたい人、能動的に試行錯誤しながら動ける人、最新のハード・ソフトウェア技術に興味がある人…など。多くの技術レイヤにおける開発業務・顧客営業に没頭できる。その一方で、マタニティー休暇制度を整えるなどワークライフバランスも十分に配慮され、女性にも働きやすい職場だ。
未知のことが多い“脳”の解明を通じて、好奇心をふくらませながら、社会に貢献できる職場だ。