ヘルスビッグデータを活用した予防医療の最前線!
「マーケティング × テクノロジーで人と社会を健康に」というミッションを掲げている、株式会社キャンサースキャン。同社は、毎年約42兆円もの医療費支払いを担う日本の健康保険の保険者向けに、マーケティング機能やデータ分析ツールを提供している。
わが国の医療費は約42兆円(2017年度)。その70%近くを60歳以上が費消している。国民1人あたりの年間の医療費は30~40代が10~20万円であるのに対し、75歳以上となると80~100万円に増える。高齢化社会が進展する日本の医療費は年々伸び続け、2025年には約58兆円にまで膨れ上がると予測されている。日本は「国民皆保険制度」が施行されており、医療費の約70%は健康保険料、約10%は政府支出(税金)、20%は患者負担で賄われている。現役を退いた高齢者は国民健康保険に移行するが、このままでは日本の健康保険制度は崩壊しかねない危機的な状況にある。医療費の削減は待ったなしだ。
そこで医療費を削減する最重要の施策と考えられているのが“予防”だ。そのために不可欠なのが、定期的な健康診断と、その結果に対する医療機関の受診や保健指導等のフォローアップである。国民健康保険の被保険者に対する当該業務は、保険者である地方自治体に一任されている。ところが、がん検診や特定健診の受診率は37%程度に止まっているというのが現状。さらに問題なのは、健診の結果「要治療」となった人の未治療率である。ある自治体では、慢性腎臓病と診断された人の94.4%、同じく高脂血症の91.6%、高血圧症の61.3%が治療を受けていないことが判明しているという。
この大きな原因は、自治体職員の人手不足とノウハウ不足だ。住民を確実に毎年健診に誘導し、その結果に基づいたフォローアップを実行してもらうためには、膨大なヘルスデータの迅速な解析に基づいた緻密なマーケティング戦略を要する。しかし、自治体職員である保健師は約28,000人と被保険者1,250人に1人の割合しかおらず、こうした最先端の技術の習得やキメの細かい実行が不可能であるのが現実だ。
ここに、ビッグデータ解析とそれに基づくマーケティング戦略、コミュニケーション開発のアウトソーシングニーズが生じており、
同社が“マーケティング×テクノロジー”の力で応えているのである。2019年1月現在、顧客である自治体が約250。2020年までに約450自治体に一気に増える見込みだ。全国約1,700自治体の26%程度であるが、人口カバー率では4割に達する見込み。同社は、日本の保健・医療制度を維持するキーファクターの1つとなるだろう。
ユーザーが自ら自由に利用できるクラウド型ヘルスデータ解析ツールを開発
従来、自治体が郵送してきた“健診受診のお知らせ”は、あらゆる被保険者に対して一律に伝えたい内容を一通り盛り込んだものであった。しかし、被保険者の中には、健診に対して関心がなく「知らないから受診しない」という人、関心はあっても「健診で病気が見つかったら嫌なので受診しない」という人、受診する意図はあって「いつか受けよう」と思っている人等、様々な人が存在している。したがって、1つのメッセージで全員が一気に同じ行動を起こすことは難しく、それぞれに行動を起こさせるためにはそれぞれの心理状況に応じたメッセージが必要になる。
そこで同社は、インタビュー調査やアンケート調査を重ねて、5つほどにセグメントした対象者それぞれに有効なメッセージ手法・内容を開発。それと共に、自治体から健診やレセプト等の被保険者の健康に関するデータを預かって、一人ひとりのセグメントを解析する独自のAIを構築したのだ。
「このAIにより、一人ひとりの被保険者が来年度の健診を受けるか受けないかを95%の確率で予測できるようになりました。つまり、受診しない人をターゲットにすることで、より効率的な受診率向上対策が打てるようになります」と取締役副社長の米倉章夫氏は説明する。
一連の施策により、日本の過去10年間の健診受診率の平均年間向上率が2.3%であったところを、同社のクライアントは過去2年間の平均年間向上率が9.4%に達するという急激な効果を挙げている。また、健診データとレセプトデータを掛け合わせることで、「要治療であるにもかかわらず治療を受けていない被保険者」を特定することもできる。そこで、ある自治体の慢性腎臓病と診断された人の94.4%に及ぶ未治療者へのアプローチを行った結果、67.4%まで下げる実績を挙げた。
「現在は、健診の受診率を向上や未治療者を治療に向かわせるためのデータ解析、コミュニケーション開発を手がける案件が多いですが、今後は長期的な被保険者一人ひとりにカスタマイズされた健康管理を実行するためのクラウド型プラットフォームの開発、提供がメインになります。こちらのほうが圧倒的に難易度は高いですが、それだけ社会的な意義の高い、高付加価値なサービスになります。」(米倉氏)
このクラウドツールの開発体制の強化が今回の採用の目的だ。
「どの被保険者にどんなメッセージを送ればいいかが即座に解析できることで、自治体職員の当該業務を劇的に効率化できます。これにより、自治体として被保険者の健康増進施策にパワーを割けるようになると思っています。しかし、このシステム開発のエンジニアが足りていないのが現状です。関心がある方はぜひアクセスしてください」と米倉氏は呼びかける。
“信じる合理性”で管理せずメンバーの邪魔をしない風土
同社が大切に考えているバリュー(価値観)は次のとおりだ。
・Great is not enough:妥協せず
・Stay true to science:科学を信じる
・Questions ignite innovation:今までにとらわれない
健康に関する領域には、俗説を含め、根拠が不明の怪しいものが非常に多く溢れている。そういったものを売ろうと騙す行為は“詐欺”であるが、同社は科学的に正しいことを広める“マーケティング”しか手がけない。その手法として、これまでにないことに果敢にチャレンジし、妥協なく追求することをモットーとする。
こうしたバリューを実現する行動指針は、次のとおりだ。
・Trust brings efficiency:信じる合理性
・Initiative and follow-through:先頭に立つ当事者意識
・Challengers get no blame:迷った時は、やる
「当社のカルチャーの特徴は、この行動指針が非常に大きく作用しています」と米倉氏は言う。まず、“信じる合理性”。同社では、できるだけメンバーを管理しないように徹している。出張申請や日報などの内部管理手続は、ほとんど存在していない。“報・連・相”の「“報・連”は不要」としているのだ。
「当社の採用においては、知的好奇心の赴くままに突き抜けようとする人材しか選んでいません。ですから、そういった人の行動を促進させる書籍購入やセミナー受講支援等は積極的に行う半面、邪魔するような制度やルールは一切、設けていません」(米倉氏)
そんな人材が当事者意識を持ち、他のメンバーの業務にも関心を寄せて意見を言ったり、困っていたら助けるといったことが当たり前のように行われているという。
同社のメンバー数は約50名(2019年1月現在)で、エンジニア(システム開発)、マーケティング(コミュニケーション企画開発)、営業・管理がそれぞれ3分の1ずつを占めるという体制。バリューや行動指針は会社としてのものだけでなく、それぞれのチームごとでも掲げて運営されている。「これが当事者意識を高めるいい効果を生んでいる」と米倉氏。
人材育成においては、自らの専門性を他のメンバーに提供することを業務の一環とし、人事考課の対象とすることで促進させている。また、ナレッジ共有サービスを導入し、個人やチームの暗黙知の形式化を推進している。メンバー間のコミュニケーション促進策については、「五反田という土地柄もあってよく飲みに行くので、特段必要性を感じていない」と米倉氏は言う。
同社の求める人材像について、米倉氏は「社会を健康にすることに関心を持ち、知的好奇心を追求するだけでなく自らの専門性をメンバーと共有することに喜びを感じる方」と言う。
日本で培ったノウハウや知見は、今後海外で展開する構えだ。ダイナミックで社会貢献度の高い独自のビジネスに関われるチャンスが、ここにある。