株式会社ヒューマン・インターフェース・テクノロジー

株式会社ヒューマン・インターフェース・テクノロジーは計測機器メーカーでエンジニアとして長年キャリアを積んできた横川氏によって1991年に設立された。
当初は受託開発業務を主として、知り合いのつてを頼りに2～3社から受けた特注品の開発を行っていたという。最初に手がけたのはある装置を起動させる為のフロッピーディスクを読ませるハードウェアとソフトウェアの開発。現在では高機能のOSが多数存在するが、当時は一から作り上げていたのだ。
設立当初からハードウェア・ソフトウェアの双方に携わっていたことは、同社の事業展開の方向性を決めるものとなった。

同社は現在、製品企画からハードウェア設計・開発、ファームウェア設計・開発までのトータルサポートを行っているが、特にASIC／FAPGの設計・開発に力を入れている。

社員は横川氏も含め3名。現在は高速ネットワークの研究開発に関するプロジェクトに入り、様々な機能を持たせて汎用的に使用できるハードウェアの開発の手伝いをしている。同社の社員のスキルは高く、詳細設計から検証まで全ての工程を手がけているという。

依頼は全て知り合いからの紹介だという同社。通常小さな会社の経営者はセミナーや同業者の集まる会合などを積極的に活用し、営業をしていくが、横川氏はほとんどそういった集まりには参加していないという。にもかかわらず、紹介は途切れることなく続き、「なんだかものすごい数の名刺がたまってるんですよね」と横川氏は言う。

「特別なことはしない、普通が大切」そう語る横川氏だが、同社が17年間会社を維持し続けてきた秘密はどこにあるのだろう？

「自分も社員も理解できないものは受けない」と横川氏は言う。
同社はまだ規模が小さいため、案件がきても受けられないことも多い。その場合は知り合いの会社に紹介をするが、その際も「自分に理解できないものは流さない」そうだ。「無理をして引き受けたばかりに、苦労したり、失敗する会社もたくさんあります。自分の会社はもちろんですが、それが流す相手にとっても不利益になるなら断ります」（横川氏）。

「特別なことはしていない」、そう謙遜する横川氏だが、エンジニアや会社に対する誠実で深い信念に、会社が続いてきた秘密があるようだ。

社員2名は、それぞれ電子回路（ハードウェア）の設計、ASICの開発経験を持ち、もともとは同社の取引先企業に在籍していたという。その社員曰く、同社は「居心地の良い会社」だ。規模が小さいからこそ社員の関係は密で、待遇面でも仕事面でも社長と直接話し合うことができるというのもポイントの一つだろう。「何かあれば二人ともすぐに言ってきてくれます。それに顔を見てれば分かりますしね」（横川氏）。
社員が別々の開発案件に携わり、まったく別の派遣先で仕事をすることはないという。横川氏は言う。「効率が上がるという理由もありますが、一番はフォローのためです。やはりまわりに仲間がいた方が良いですからね」。横川氏は社員のことを「仲間」と呼ぶ。こんなところにも同社の社員の繋がりの深さが垣間見えるのではないだろうか。

横川氏に経営者として心掛けていることを聞くと笑いながらこんな答えが返ってきた。「普通というのが大事だと思ってます。収益を上げるために社員に無理をさせる気はありません。爆発的に業績や給与があがることはないかもしれませんが、社員がみんな無理なく働いて、きちんと生活していけるだけの収益を上げること、そして何よりそれを継続していくことが一番大切だと思ってます」。

そんな横川氏の言葉を裏付けるのが同社の財務状況だ。同社は現在無借金経営をしており、今後もそれを継続していく予定だ。「無理をしてだめになった会社をいくつも見てきました」（横川氏）。急激な事業拡大や、地に足の着かない事業には慎重で、身の丈に合わせた事業展開を行い、会社の存続を第一に考える。それが経営者としての横川氏の方針だ。

エンジニアの就業環境に関しても、横川氏の考え方は徹底している。一般にエンジニアは就業時間が不規則で残業も多い。そのことが原因で体調を崩し、仕事を続けられなくなる人がいるのも事実だ。「エンジニアの就業環境は改善していきたい。弊社では深夜残業は禁止。土日は原則として休みにしています」（横川氏）。実際社員の方からも同社の居心地の良さの理由として「業務時間の区切りがしっかりしている」という点が挙がった。その他にも家賃補助制度や休暇制度など、同程度の規模の会社にはない待遇が整っている。

「現在は社員にも派遣という形で仕事をしてもらっている。新しく入社していただく方にも、当面は派遣という形態で働いてもらうことになると思います。そのことは事実なので、応募者の方にはきちんと伝えておきたい。ただ、これはあくまで会社の発展の途中だからだと考えて欲しい。基本的にはもともとやっていた受託開発の部隊をつくっていきたいと思っています。そういう形態にすることで、自分や社員の培ってきたノウハウを新しい方に伝えて、社内に蓄積していきたい」（横川氏）

ウソで人を集めることは出来ないと言い、社員に「普通」の仕事・生活をしてもらうことが大事だと語る横川氏、派手さはないかもしれないが、エンジニアに対する思いは真摯で誠実だ。

現在派遣という形態で働くエンジニアは多い。その中には自分の将来や待遇に不安や不満を感じている人も多いだろう。何より横川氏の話や、同社の待遇にも表れている「エンジニアが普通に仕事をして普通に生活していく。しかもそれを継続していける会社」で働けること。このことは多くのエンジニアにとって魅力的なのではないだろうか。