トール株式会社

トール株式会社は、1991年に創業した老舗のシステム開発会社。激動のIT業界において、35年にわたり技術力の高いエンジニアを育成し、SI業界に送り出してきた歴史を持つ。現在も受託開発とSES（システムエンジニアサービス）を主軸に、堅実な事業運営を続けている。

同社の特徴は、エンドユーザーとの直取引やSIerからの直請けに限定した“商流の浅い案件”にこだわっている点にある。システム開発業界では、商流が深くなるにつれて発注企業からエンジニアまでの間に複数の企業が介在し、中間マージンが発生する。その結果、エンジニアの報酬が目減りし、働き方にも悪影響を及ぼすケースが少なくない。

商流が深いプロジェクトでは、指揮系統や責任の所在が曖昧になりがちで、エンジニアが自分の仕事の意義を感じづらくなることがある。単独で現場に常駐し、短期間で職場を渡り歩くこともあり、働き方や人間関係が安定しないという課題も生じる。こうした業界構造に対して、同社は明確な方針を掲げている。

「商流が深くなると利益率が下がり、会社としてもエンジニアに余力を持たせることができなくなります。経営や働き方の安定を守るため、当社では案件の商流を厳選しています。責任は大きくなりますが、技術力の高いエンジニアを揃え、お客様と密なコミュニケーションを取ることで、プロジェクトを成功に導いております」（代表取締役・茂木実氏）。

この方針を実現できている背景には、茂木氏の営業力と業界ネットワークがある。茂木氏のキャリアのスタートは製薬会社のMR（医薬情報担当者）であり、医師や薬剤師に医薬品情報を提供する営業職として、専門性の高い領域で信頼関係を築く力を養った。

「医療という現場で、相手の立場に立った提案をする経験は、後のIT業界での営業活動にも大きく生きています。その後、黎明期のIT業界に未経験で飛び込み、メーカーやSIerとの関係構築に奔走しました。安定した案件受注が可能となっているのは、お客様との信頼を大切にしてきたからです。そして何より、現場で働くエンジニアが技術力の研鑽を怠らず、お客様の期待を超える成果を出し続けてくれたからです」（茂木氏）。

同社は、エンジニアの働き方と技術力を守るために、今後も商流の浅い案件にこだわり続けていく。営業と技術が一体となって価値を届けるという姿勢が、35年にわたる信頼の礎となっている。

システム開発会社としての同社のもう一つの特徴は、エンジニアの育成力に定評がある点である。長年にわたり、IT業界未経験の人材をシステムエンジニア（SE）へと育ててきた実績があり、特に上流工程やマネジメント等、SEに求められるスキルを磨くためのノウハウと仕組みが整っている。

ITエンジニアがキャリアアップを果たし、豊かな生活を手にするためには、要件定義や基本設計といった上流工程のスキルを習得することが不可欠である。プログラミングやサーバ運用・保守、テスト工程等の下流工程は、SESにおいても単価が低くなる傾向があり、IT業界で高いバリューを発揮するには、SEとして活躍できるスキルを身に付けるのが望ましい。

「上流工程やプロジェクトマネジメントといったSEの仕事は、モノづくりの醍醐味を味わえる重要なポジションです。下流工程からステップアップするのが一般的なキャリアパスですが、SEのスキルを習得するのは難しいとされています。クライアントやエンジニアとのコミュニケーションがスキルの中心にあり、座学で身に付くものではありません。当社には経験豊富なSEやPMが在籍しています。彼らの仕事ぶりを通して、若手のエンジニアが学んでいます」（茂木氏）。

SEへのステップアップにおいても、同社のポリシーである“商流の浅い案件”は重要な要素となる。商流が深いポジションでは、上流工程やマネジメントといった役割を任されることが少なく、エンジニアが挑戦する機会を得にくいからである。

「お客様視点で考えると、エンジニアのスキルアップよりも、現状のスキルで最大のパフォーマンスを発揮してもらう方が得策と言えます。特にSESの現場では、端的に技術力が求められており、エンジニアは自らのスキルにマッチする案件にアサインされるケースが大半です。当社はチーム体制でプロジェクトに参画しているため、スキルが足りないエンジニアがいても周囲のバックアップでカバーできます。その環境があることで、エンジニアはスキルアップにチャレンジできます」（茂木氏）。

同社は、商流の浅い案件にこだわることで、エンジニアに成長の機会を提供し続けている。育成力と現場力を両立させることで、未経験者からSEへのキャリアパスを現実のものとしている。

ITエンジニアが同社に転職して働くメリットには、もう一つ重要な要素がある。それは、AIの積極的な活用である。

近年のAI技術の進歩は著しく、社会のあらゆる分野でAIが導入されている。システム開発の現場でも、AIプロダクトの開発案件が増加しているだけでなく、既存の開発プロジェクトにおいてもAIが積極的に活用されるようになり、ITエンジニアの働き方そのものが変化している。

「当社は開発においてAIをフル活用することを公言しています。当社のメンバーは、それぞれのやり方ではありますが、AIを使って開発を進めています。今後数年でプログラマーの職は失われると囁かれています。AIコーディングは、目まぐるしい勢いで進化しており、コーディングを全てAIが担う時代は予想しているよりも早く到来するかもしれません。現役のITエンジニアは、AIコーディングのスキルを習得しなければ、職を失う可能性もあります」（茂木氏）。

AIを活用した開発スタイルを確立するため、同社はエンジニアに対して様々な支援を行っている。AIツールへの課金支援、社内勉強会の開催、技術書籍の購入補助等、社員がAIを活用した開発手法を身に付けられるよう、積極的に投資している。

「開発の中でAIを活用するのは、IT業界で必須だと思っています。ただ、どんな形で活用するのがベストなのかユースケースも少なく、それぞれのエンジニアが手探りで進めているのが現状だと理解しています。当社でもAI活用に温度差はありますが、会社としてはAI活用を全面的に支援します。AI活用開発に興味があるエンジニアは、ぜひ当社でノウハウを蓄積して、仲間と共有してほしいですね」（茂木氏）。

AIに限らず、同社はIT業界の変化に敏感である。これまでも業界の新しい波にいち早く乗ることで、激動のIT業界を生き抜いてきたという自負がある。

「リモートワークもコロナ禍の前から導入し、今は業務の9割以上をリモートで進めています。とはいえ、システムエンジニアになるためのコミュニケーションスキルやAIコーディングといった新しい技術の習得においては、仲間と一緒に働くことも重要です。オフィスに出社して働く機会も大切にしていきたいと考えています」（茂木氏）。