株式会社さら

SI業界には、特定の業界に強みを持つ会社がある。中には非常にニッチな業界での開発経験が豊富で、小さな会社であっても「業界のフロントランナー」として、競争力を持っているケースもある。

京都市にある株式会社さらは、大手不動産会社、大手インテリアメーカーを中心にインテリア・住宅業界向けの開発で豊富な実績を誇っており、ITを活用したシステムソリューションの企画立案・設計・開発を、ワンストップで提供している。

同社は、システム開発だけにとどまらず、多数のデザイナー、クリエイターが在籍しており、クリエイティブチームと連携し、クライアントの事業を総合的にサポート。ITツールの開発に加え、CG制作やパンフレット・ポスター等のグラフィック制作も手掛けている。

「当社では、システム開発にこだわりません。お客様に喜んでいただくため、ITツールの開発だけでなく、クリエイティブチームと連携して、CGの制作やパンフレット・ポスターといったグラフィック制作も手掛けます。お客様に対して多角的な価値提供が可能なのは、当社の強みだと考えます。一般的なシステム開発会社に比べ、インテリア・住宅業界のドメイン知識が豊富で、そのおかげもあって、当社の仕事は業界内で広く認知されています」(馬場氏)。

受託開発と自社プロダクト開発の二軸でインテリア・住宅業界向けのソリューションを幅広く展開している中でも、特に売り出し中のサービスがマンション・不動産販売に特化した業務支援DXツール『RaizOnline（ライズオンライン）』だ。
同サービスは住宅販売業務を効率化するSaaSであり、20年以上にわたる不動産販売システム開発の経験と業界知見を生かし、現場ニーズを反映した機能を、安全かつ手頃な価格で提供する。

「受託開発で培ったノウハウを生かして、業界特化型のSaaSを開発しています。不動産販売における営業活動の効率化、効果最大化を実現する『RaizOnline』のほか、マンション販売に特化した来場予約管理ツール『RaizBook（ライズブック）』など、Raizシリーズのブランドで自社プロダクトを提供しています。長年、大手不動産会社のシステム開発を手掛ける中で得た知見をSaaSという形で、中小の不動産会社にも提供していきたいと考えています」(馬場氏)。

長年にわたるインテリア・住宅業界の知見を武器に、最適なITソリューションを提供する同社。業界特化型のシステム開発を強みに、より多くの企業の事業成長を支援している。

同社のITソリューション事業部は、まだIT黎明期だった1990年代後半から業界に特化したシステム開発を手掛けてきた。しかし、同社のメイン事業は、1986年の創業以来続く「インテリア事業」であり、カーテンや壁紙等の現物が貼られたカタログ「サンプルブック」の企画立案から製作、製本加工、納品まで全工程を自社で一貫して行っている。

サンプルブックは、カーテンや壁紙、床材、カーペット、ガラスフィルム、ドア等の面材の現物を貼り付けたカタログであり、単なる印刷物とは異なる。日本国内でも制作できる企業は限られており、インテリア業界や住宅業界では広く認知される存在となっている。

「業界No.1の専門家として、全国のインテリアメーカーよりお話をいただいて、サンプルブックの制作を行っています。中国の大連市に年間約400万冊の製造が可能なサンプルブック専用の自社生産工場を保有しており、全工程を自社で一貫して行っています。ITソリューション事業部も企画立案・設計・開発をワンストップで提供していますが、企業理念の“客体に価値基準を置く”を実現するためには、一貫した開発・生産体制が不可欠です。自分たちの希望や思い込みではなく、常にお客様の立場に立って考え、市場のニーズをキャッチすることで、未来の暮らしを支える事業を展開しています」(馬場氏)。

同社のサンプルブック事業は国内市場で約7割のシェアを誇り、ニッチな市場でトップシェアを獲得できていることから、安定した企業経営を実現している。

「インテリア事業は40年、ITソリューション事業も20年以上、ニッチな業界に特化したビジネスで存在感を示してきました。2023年12月には外部資本を受け入れ、これまでに築き上げたアセットを有効活用し、CG制作の新ブランド『SO-JU』や、不動産販売業務支援DXツール『RaizOnline』など新たなサービスも立ち上げています。業界内では“老舗”と呼ばれる存在ですが、外部から新たな血を受け入れることで、ベンチャーマインドを醸成し、次の10年・20年を作っていきます」(馬場氏)。

2025年1月期には売上高61億円を達成。しかし、ITソリューション事業部の売上比率はまだ2割未満に止まる。将来性のある業界だけに、エンジニアを積極的に増員し、成長を加速させる計画を進めている。

「受託開発へのニーズもさることながら、SaaS事業を展開するためにも、エンジニアを必要としています。『RaizOnline』はサービスリリースからまだ日が浅く、顧客の声を反映した様々な機能拡張を計画しています。不動産業界というレガシーな業界におけるDXを推進することができ、非常に大きな社会的な意義を感じられます。当社が長年にわたりITシステム・ツール開発を通じて住宅販売を支援してきた実績、その中で築いてきた大手不動産会社とのリレーションを生かし、全国展開も計画しています」(馬場氏)。

同社のITソリューション事業部には、約20名のエンジニアが所属。京都本社で働くメンバーのほか、東京支社に所属しリモートで働くメンバーもいる。全社では新卒プロパーの社員もいるが、エンジニアはほぼ全員が中途入社。IT業界で経験を積んだ後に、事業会社での社内エンジニアとして“終の棲家”を選ぶ者もいれば、未経験からキャリアを築こうとしている者もいる。

「京都本社で働くエンジニアは原則出社ですが、東京支社のエンジニアは人数が少ないこともあり、リモートで勤務しています。今後、東京支社のエンジニアが増えればオフィスを増床して一部出社のハイブリッド勤務にする可能性もあります。非同期コミュニケーションでは無駄が多く、効率的に働けないこともあるため、全員が顔を合わせる環境を大切にしています。当社のエンジニアはメリハリのある働き方が上手で、ほとんど残業せずにプライベートとの両立を実現しています」(馬場氏)。

同社は、インテリアの「サンプルブック」を制作する企業だが、取引先であるインテリアメーカーのITニーズを受け、お客様に喜んでもらうべく、ITソリューション事業部を立ち上げた背景がある。現在では、大手不動産会社向けの受託開発や自社ソリューションを手掛ける企業へと成長した。

「当社は純粋なシステム開発会社ではありません。事業会社がお客様への価値提供の一環で始めた事業が成長し、一つの柱となろうとしています。そのため、お客様先に常駐して働くことはなく、業界No.1のインテリア事業があるおかげで安定した環境を確保でき、エンジニアが安心して働ける会社だと考えています。インテリア・住宅業界のドメイン知識が身に付き、何よりもお客様と直接やり取りするため、クライアントと共にプロダクトを作り上げる実感が得られます」(馬場氏)。

社として40年、事業部としても20年以上の歴史がある一方で、ベンチャー企業のようなスピード感を重視するカルチャーを作り上げている。期待以上の価値を提供することを目指し、長年培ってきた知識や専門性に最新技術を掛け合わせ、未来の暮らしを創造する。

「当社のITソリューション事業におけるメインのお客様は大手不動産会社ですが、その先には住居を購入するエンドユーザーがいます。住居は一生の買い物であり、日々を過ごす空間。エンドユーザーが納得し、喜びを感じられる選択肢を提供できるよう、エンジニアは日々努力を重ねています。ITソリューション事業もインテリア事業も、暮らしの憧れを生み出す仕事。当社は“選ぶ”ことで世界を面白くする企業として、お客様を驚かせ、感動を届けるために前進を続けます」(馬場氏)。