ドローンや空飛ぶクルマ等のエアモビリティにおける開発及びソリューションを提供しているグローバルテック企業
テラドローン株式会社は、ドローンや空飛ぶクルマ等のエアモビリティにおける事業横断的な開発及びソリューションを提供している。2022年3月に総額80億円のシリーズB資金調達を実施した。ドローンの黎明期の2016年に設立。代表取締役社長の徳重徹氏は、「黎明期にライトタイミングでスタートし、日本から世界にインパクトを与えるビッグビジネスを手掛けたい」と語る。2022年5月現在は東京本社含め、全国に拠点を構え、海外においても欧州・東南アジアを中心に事業展開する、世界最大の産業用ドローンソリューションプロバイダー。世界的なドローン市場調査機関のDrone Industry Insightsによる「ドローンサービス企業 世界ランキング2020」において、産業用ドローンサービス企業として「世界1位」に選ばれる。
同社の特徴は、ソリューションに特化していること。「PCは、ハードから始まり、ソリューションへと領域が広がった。ドローンも最初はホビー用のハードだったが、私達はIoTの大きなアプリケーションの一つとして、ソリューション領域での活用を広げていく」と徳重氏は語る。
特に活用が進んでいるのが、土木測量の分野である。ドローンによる生産性の向上は絶大だ。例えば、40ヘクタールの土地を測量する場合、従来どおり人の手によって実施すると1~2週間かかるところを、ドローンを利用すれば1時間余りで可能とのこと。大手ゼネコン・建設会社・測量会社・建機メーカー等の案件を中心に、3,000回以上のドローン測量実績を有する。建設現場でのICT活用を促進する国土交通省の「i-Construction」事業でも、ドローンによる測量実績が全国トップクラスである。
また、保守点検の分野でもニーズが高まっている。日本では道路や橋梁、トンネルといったインフラが竣工から50年以上経っている。国土交通省によると、40万の道路や橋、1万のトンネルに対してメンテナンスが必要という。その一方で、熟練の技術者が高齢化によって現場を離れ、人材不足は深刻だ。そこで、同社ではドローンによって技術者が遠隔で現場を確認できるソリューションを提供している。近年の災害復興や区画整理のための大規模な政府プロジェクトや長距離送電線点検等、実績は多数。海外でも石油・ガス、電力、マイニング、建設分野を中心にサービス展開を加速させている。
同社のストロング・ポイントの一つは、スタートアップ特有のサービス展開の早さにある。マーケティング戦略やテールリスクの回避等、事業立ち上げの専門家集団がスピーディにプロジェクトを推し進めている。もう一つは、現場のニーズに的確に応える、豊富な業界知識だ。同社は、事業を強力に牽引するスタートアップメンバーだけでなく、その業界を熟知した人材もチームに加えている。この両者の連携により、実のあるソリューションを生んでいる。例えば、ロッテルダムでは、ドローンを飛ばし、コンビナートの貯蔵タンクの壁を超音波で測定している。取得されたデータはAIによって処理。これらに紐付くタンクの管理システムもテラドローン株式会社が提供している。「管理システムは、現場の知見が必要。当社ならそれができる。このような総合的なソリューションを目指したい」と徳重氏は語る。
「日本企業」の世界的なプレゼンスの復権と、社員の成長を願う熱い思い
テラドローン株式会社には、「Terra Way」という四つの行動指針がある。その一つ目に〈Challenge as Global No.1
-志高く、世界No1へ挑め-〉を掲げている。1990年代初頭、世界の時価総額ランキングの上位20位は、ほとんどが日本企業だった。アメリカで学生時代を過ごしていた徳重氏は、街中に沢山の日本企業の広告看板を見かけたという。時は移り、いまやランキング上位に日本企業の名はなく、 街中も広告看板からも姿を消した。徳重氏は、その状況を目の当たりにしている。それが、世界へかける思いへと繋がっている。「かつての日本は、町工場がその技術を世界に知らしめ、グローバル企業へと成長したことがあった。それが、私達の目指す戦い方」と徳重氏は語る。
「Terra Way」はこのほか、〈Center Pin & Speed -センターピンとスピード-〉〈Ownership & Grit
-経営者意識とやりきる力-〉があるが最後の4つ目の〈Inspire &Inspired-インスパイア-〉を徳重氏は特に重視しているという。国籍、年齢、役職、職種、社内外問わず多様な価値観を受け入れ、感謝の気持ちを割るせず、謙虚に常に学び続ける。これは、成長したい人がスタートアップ企業にはやってくるが、謙虚でないと伸びないためだ。
元々徳重氏は、教育者・吉田松陰ゆかりの山口県出身。「当社は、ドローンを扱う会社だが、取り組んでいることは、〈人〉をつくること」と語るほど、教育に関心が高い。そのため、成長を目指す社員には積極的にチャンスを与えている。しかも、思うような成果が出せなかったとしても、その責は問わない。「むしろ、そういうヤツにやらせる」という。それは、自身の経験から、挫折こそが次の成長に繋がるという信念があるため。「新規事業は100あれば、三つ当たればいい。その確率は、神の領域」と徳重氏は語る。
しかも、同社は設立当初からグローバルに事業を展開し、ベンチャーでありながら総合商社のようなスケーラビリティがある。そのため「修羅場がゴロゴロしている」とか。「たとえ、成果が芳しくなかったとしても、“その経験があること”が強み。実際、インドで悔しい思いをした社員に、今、ヨーロッパの新規事業にチャレンジさせている。うちの会社は修行の場。〈テラ道場〉のようなイメージ。どんどん鍛えていく」と徳重氏の思いは熱い。
“空飛ぶクルマの時代”に備え、世界の空を管理するプラットフォームを整備
同社は、土木測量・保守点検の分野のほか、GIS(地理情報システム)、農業、漁業、海上保安等の領域にもサービスを提供している。「ドローンによるソリューションの可能性はまだまだ広がっている」と徳重氏。2020年は、新型コロナウイルス感染拡大防止を目的に、ドローンによる物流や警備等の領域にも乗り出した。世界的に進むDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、ドローンによるソリューションをさらに推し進めたい考えだ。
「将来は、沢山の産業用ドローンが空を飛び交うようになる」と徳重氏。そんな未来を見据えて、大手企業との共同でドローン運行管理システム(UTM)の実証実験を重ねている。目指しているのは、「空を管理するプラットフォーム」。ドローンは、一台一台から沢山の情報を得ることができる。そのデータをUTMで集積することで、次のビジネスに生かしたいという。
また、いずれドローンはUTMによって国が管理することになると徳重氏は予測。実際、海外では国レベルのドローンのUTMが動いている。テラドローン株式会社のグループ会社であるベルギーのUnifly社は、カナダのほかヨーロッパの一部の地域にドローンのUTMを既に提供している。今後も世界各国の企業と連携し、世界の空を牛耳るUTMを目指したいという。
徳重氏が、UTMに強くこだわるのは、未来を見据えてのこと。「空には色々なレイヤーがある。航空機があり、その下にヘリコプター、ドローンはさらにその下となる。しかし、今後、ヘリコプターとドローンの間にもう一つ、“空飛ぶ車”が加わるはず。ドローンで培ったノウハウを生かし、これを取り込むことができれば、大きなビジネスチャンスになる」と徳重氏は言葉に力を込める。
テラドローン株式会社の志は高い。社員の入社理由も、「事業をつくりたい」「世界で戦いたい」「ドローンで新しい産業をつくりたい」と熱の塊のようである。徳重氏も求職者に対し、「何を考えて、何をしようとしているのか、面接では本音をぶつけてほしい」と語る。
今の時代、様々なIoTによるソリューションや、5Gといった新たな領域にも魅力があるが、具体的に何ができるのかは、正直なところイメージしづらい。しかし、ドローンによるソリューションは、今すぐできるところ。まさに、リアルバリューが“見えている”領域といえる。未来への手触りを感じつつ、自分の力で引き寄せていく。そんな得難い“修羅場”が、テラドローン株式会社にはあるだろう。