宇宙ビジネスにチャレンジ!日本初の有人宇宙飛行を目指すスペースベンチャー
株式会社SPACE WALKERは、再使用型有翼式サブオービタルスペースプレーンの開発を進めるスペースベンチャー。2029年までに日本初の有人宇宙飛行を目指している。
SPACE WALKERが現在進めているプロジェクトは3つある。2024年の打ち上げを目指している「Fujin」は、無人のスペースプレーンを宇宙空間に打ち上げ5分程度の無重量時間を実現することで主に科学実験のサービスを提供する。2026年の打ち上げを目指している「Raijin」は、小型衛星の打上げサービスを提供する予定だ。そして2029年までに打ち上げを目指している「Nagatomo」は有人宇宙飛行を実現させる。
「イーロン・マスクやジェフ・ベゾスが宇宙開発に乗り出しており、通信衛星を5万基打ち上げて、電波の基地局を宇宙に設け、地球全面に通信網を張り巡らせる計画が進んでいます。海や山、空でも通信がつながるようになり、2030年に100兆円をこえるマーケットになると予測されています。その中で、圧倒的に足りないのが、ロケットです」(代表取締役CEO・眞鍋顕秀)
宇宙ビジネスが世界的な広がりを見せている中、打ち上げられるロケットの数が少ない。イーロン・マスクやジェフ・ベゾスといったテクノロジーで現代の社会を作ったゲームチェンジャーたちは、自分たちでロケットを打ち上げる選択をした。その背景で宇宙開発におけるゲームチェンジが起きていると眞鍋氏は語る。
「従来のロケットは使い捨てタイプです。宇宙に人や物を輸送するのに、ロケットの大半を海に投棄しています。当然、コストも製造時間もかかります。使い捨てロケットを製造しているのは、いわゆる重工メーカー。彼らにとっては、大量生産ができないロケットは、当然高価な製品となります。ところが、スペースXや当社が開発を進める再使用型ロケットは、低コストで製造・運用できます」(眞鍋氏)
現在の世界で進んでいる最新の宇宙ビジネスは、衛星を打ち上げてサービスを開発し、それを提供することで利益を確保するビジネスモデル。そのためには、打上げコストが低いと利益確保につながる。そのため、再使用型ロケットの開発が世界的に急ピッチで進められている。
「スペースXが打ち上げているのは、ペンシル型の逆噴射式大型ロケット。一度にたくさんの衛星を打ち上げることができ、最初のインフラ構築には効率的ですが、故障した衛星を交換するのに大型ロケットを打ち上げるのは、逆に非効率。リプレイス需要には、当社が進める小型ロケットこそ最適解だと考えています」(眞鍋氏)
スペースXが開発する逆噴射式だと帰りの燃料を搭載する必要があり、どうしても大型化してしまう。その点、SPACE WALKERが開発を進める再使用型有翼式サブオービタルスペースプレーンは、翼を持つことで誘導制御システムによるグライダー飛行ができ、帰りの燃料を積まなくて済むため小型化できる。
東京~ニューヨークを40分で結ぶ!再使用型有翼式サブオービタルスペースプレーンの秘めたる可能性
SPACE WALKERは、2017年に設立されたスタートアップベンチャーだが、ロケット開発の歴史は長い。Co-Founderであり取締役CTOでもある米本浩一氏は、川崎重工業航空宇宙カンパニーに所属したエンジニアで、有翼飛翔体「HIMES」の研究開発、飛行実験で中心的な役割を担った人物。宇宙開発事業団の宇宙往還機「HOPE-X」の研究開発、文部省宇宙科学研究所再使用ロケット実験機の開発、飛行実験にも携わった宇宙開発のスペシャリストなのだ。
「2016年に知人を介して、スペースベンチャーの立ち上げを検討していた米本と出会い、宇宙ビジネスの可能性を調査しました。イーロン・マスクやジェフ・ベゾスなど、アメリカのIT起業家たちがこぞって宇宙ビジネスに参入しているのは、ゲームチェンジが始まっているからだと感じました。そして米本がこれまで進めてきた、再使用型有翼式サブオービタルスペースプレーンは、その新しい宇宙ビジネスに最適な技術でした」(眞鍋氏)
会計士である眞鍋氏は、当時経営していた会計事務所をたたんで、SPACE WALKERの立ち上げに参画した。
「米本の研究が商用飛行の一歩手前まで進んだため、スペースベンチャーを立ち上げるべく動き始めていました。世の中を変えられるビジネスができると考え、SPACE WALKERの立ち上げにジョインしました。現在、東京理科大学嘱託教授を務める米本を中心に、東京理科大学の学生や当社のエンジニア、そして、川崎重工やIHIグループなどの協力会社と一緒に、産学共同で最後の実証機と最初の商用機を並行して開発しています」(眞鍋氏)
さらに、2029年を目標にパイロット2名、乗客6名を乗せて高度120kmを往復する水平離陸・水平着陸可能な再使用型有翼式サブオービタルスペースプレーンの開発も計画している。これが完成すれば、日本初の有人宇宙飛行、そして宇宙旅行が可能となる。しかし、それだけにとどまらない。
「有人宇宙飛行ができれば、その先には『高速二地点間輸送』の実現が待っています。高速二地点間輸送とは、スペースプレーンを打ち上げ、宇宙空間を経由して地球上の二地点間を超高速移動する技術です。大気のない宇宙空間を飛行すれば、東京とニューヨークを40分で結ぶことも難しくありません」(眞鍋氏)
高速二地点間輸送は、大量の燃料を必要するため、非効率で現実的でないとの否定的な意見もあるが、技術の進歩で可能となる日が来ると眞鍋氏はポジティブにとらえている。
「ロケットは液体酸素を推進力にします。酸素を空気中から取り込んで燃料として使う『エアブリージング』という技術が進歩すれば、燃料搭載量を少なくすることができるため、高速二地点間輸送は現実味を帯びてきます。エアブリージングの技術はまだまだ実用段階にはありませんが、これまでの科学技術の目覚ましい進歩を考えると決して不可能な技術ではありません」(真鍋氏)
高速二地点間輸送が実現すれば、小型衛星打上げと並ぶ収益を生み出す事業となる。SPACE WALKERは、米本氏が培った再使用型有翼式サブオービタルスペースプレーンの技術を、ビジネスとして開花させるために生まれた会社なのだ。
低炭素社会実現へ期待。高強度で軽量かつ安価で製造できるType4容器の開発
再使用小型ロケットによる「小型衛星打上げ」、有人宇宙飛行の実現による「高速二地点間輸送」と並んで、SPACE WALKERのビジネスの柱となるのを期待されているのが、燃料タンクの開発。SPACE WALKERはロケットのキーコンポーネントである炭素繊維複合材技術を使ったType4容器(プラスチックの容器に炭素繊維を巻き付けたもの)の開発を進めている。このType4容器は、ロケットの燃料タンクとして、ロケットを製造する会社へ販売するだけでなく、さまざまなシーンでの活用が期待されている。
「現在ガスタンクなどで使用されているType3容器は、内側がアルミかチタンの金属で作られています。強度の点では問題ないのですが、アルミやチタンのような軽金属製であるとはいえ、巨大なタンクを作ると重量が嵩んでしまいます。プラスチックに炭素繊維を巻き付けたType4容器は、Type3容器と変わらない強度をアルミに比べ30%軽く実現できます」(眞鍋氏)
軽量かつ安価で製造できるType4容器だが、これを作る会社は世界中見渡しても存在しないという。
「地上の用途ではType3容器で事足りため、Type4容器を生産するメーカーがありません。しかし、宇宙開発となれば話は別。宇宙開発では重量が1㎏軽くなると、衛星打上げ用のロケットで200万円~300万円、月や火星など深宇宙へ行くロケットだと1億円のコストダウンになるといわれています。宇宙開発用にType4容器の製造設備を作れば、地上用にも生産可能となります」(眞鍋氏)
例えば、消防士が背負う「空気呼吸器」。これをType4容器で作れば、当然今よりも断然軽くなる。軽量化すれば、火災現場という極限の状況で働く人たちの命を守れることができる。さらに、低炭素社会実現へ向けて期待されている「燃料電池車」の普及にもType4容器は活用できる。
「燃料電池車を走らせるためには、水素ステーションという社会インフラを作る必要があります。水素を貯蔵する巨大なタンクを作るため、既存のガソリンスタンドには設置が難しいとされています。しかし、Type4容器で水素タンクを作れば、ガソリンスタンドの屋根上に設置可能。そうすると、新たな土地を必要とせず、ガソリンスタンドを有効活用して低炭素社会へとシフトすることができます」(眞鍋氏)
スペースベンチャーと聞けば、夢を追いかける仕事だと思われがちだが、SPACE WALKERは「小型衛星打上げ」「高速二地点間輸送」「Type4容器販売」という、収益化できるビジネスモデルを念頭にロケット開発を進めている。単なる夢物語ではなく、リアルなビジネスとして宇宙開発に携わってみたいエンジニアにとって、SPACE WALKERこそ求めていた職場になるだろう。