AIのことなら何でもできる、AIの"総合商社"
ギリア株式会社は、『ヒトとAIの共生環境の実現』を目標とする、ディープラーニングに特化したAIベンチャーである。設立は2017年6月。UEI社とソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)、ベンチャーキャピタルの米WiL社のジョイントベンチャーとして誕生し、みずほフィナンシャルグループ、シグマクシス社などからも出資を受けている、急成長中の注目企業である。
近年のAI技術の進化にともない、数多くのAIベンチャーが誕生しているが、そういった企業群と同社には決定的に違うところがある。それが、ギリア・グループの総合力だ。グループの中心を担うギリア社は、クライアントに対してAI活用のコンサルティングや導入サポートなどを行うとともに、ディープラーニングに関する技術開発を追求している。大学や研究機関向けにディープラーニングに特化したワークステーション『Deep Station』や誰でもAIの開発ができることを目指したソフト『Deep Analyzer』の展開もしている。さらにそのわきを固めているのが、ディープラーニングの精度を決定するデータセット作成を担うAIUEO社、教育サービスを提供しているUEIエデュケーションズ社である。
「コンサルから技術やツールの開発、教育、そして電源を入れればすぐにディープラーニングが活用できるハードウェアやソフトウェアの開発・販売まで、AIのことなら何でもやっている総合商社がギリア・グループというわけです。手前味噌ではありますが、ここまですべてがそろっている企業は、世界に目を向けてもほとんどないでしょう」
こう語る同社代表取締役社長・清水 亮氏は、AIの総合企業であるがゆえの強みについて次のように説明する。
「サービスを提供しているお客様は、大企業や大学の研究機関がほとんどで、さまざまな分野の専門家たちがそろっています。そのような方々の知識とAIの技術を掛け合わせることによって、イノベーションが生まれます。そこから得られる知見を技術開発などへフィードバックすることで、お客様に提供できる価値をより一層高めていけます。このサイクルがグループ内にできていることは、他の会社にはない大きな強みになっています」
誰もが意識することなくAIの恩恵を受ける世界をつくる
ギリア株式会社は、設立間もない企業ではあるが、すでに多数の事業化案件を手掛けている。たとえば、みずほフィナンシャルグループと連携し、AI、OCR(文字認識技術)などを活用することで、手書き・非定型帳票の事務効率化ソリューションの実証実験に成功、さらにその導入を推進している。ほかにも、建設会社と連携して橋梁のひび割れをAIによって検出するシステムの開発案件や保険業務に関わる案件など、大手企業や業界のリーダー企業のAI活用をいくつもサポートしているのだ。
「私たちは、赤ちゃんもお年寄りも、誰もが"AIを使っていることすら意識しない"世界の実現を目指しています。たとえば、銀行で振り込みをする際、振込用紙に名前や金額、振込先などを手書きで記入しますよね。銀行側は、その用紙を処理するために3人もの行員がチェックしています。ミスを防ぐためのオペレーションなのですが、これをAIに置き換えれば一人で対応できるし作業時間も短縮できます。大きな業務改革です。でも、振り込みを依頼したお客様は、『いつもより早いな』と感じる程度で、そこにAIが使われていることは意識していません。こういう変化を少しずつ積み上げていって、気が付いたら生活のさまざまな場面でAIの恩恵を受けているという世界にしていきたいのです。具体的には、3年後までにギリアが提供するAIによって、恩恵を受ける人たちが1億人を突破するところまでもっていきます」(清水氏)
現在のところ、法人を対象としたAI活用サポートが中心になっており、PoCでは他の追随を許さないほど高い成果をあげている。しかし今後は、BtoC領域でのAI活用を目指していくという。
「すでに『Deep Analyzer』など、AIのマニアと言えるほどの知識レベルのある人が使うためのソフトウェアを開発・販売していますが、将来的にはコンピュータに詳しくない一般の人でも使えるところまでハードルを下げていきたい。そのための研究開発に本腰を入れて取り組んでいきます」(清水氏)
ギリアが目指しているのは、今の世の中にはまだ存在しない新しい世界だ。それゆえに、新しい発想を具現化できるだけの技術力の習得には余念がない。カプセルネットワークなど先端技術の検証は常に行っており、開発体制の強化という意味では、2018年10月に米コジタイ社との戦略的パートナーシップも結んでいる。
「コジタイ社は強化学習において世界トップレベルの知能が集まった科学者集団です。彼らが保有する強化学習に関する知識と経験を私たちが日本の産業に導入することで、世界でも類を見ない大きな変革が起きるはずです」(清水氏)
求めている人材像は、誠実な"野心家"
ギリア株式会社の“学ぶ環境”は充実している。グループ内に教育サービスを提供している会社があるため、そのノウハウを取り入れた育成方法を導入。株主との合同勉強会や教育機関での教育セミナーを受ける機会があるほか、海外の学会への参加も可能だ。たとえば、機械学習の国際学会「NeurIPS」のスポンサーになっているため、入手が困難といわれるNeurIPSの参加チケットが割り当てられており、年齢や経験に関係なく、やる気のある人材に参加の機会を与えることも考えているという。
「社内ブログで社員自らが自身の知見や経験を発信していますし、専門書をはじめとした参考図書も充実しています。本人に学ぶ気持ちさえあれば、その機会は豊富に与えられると思います」(清水氏)
また、兼業についても「歓迎だ」というから面白い。
「AI関連業界におけるネットワークはそれなりに充実しているという自負がありますが、それ以外の業界との接点は少ないです。でも、私たちが目指す世界を実現するには、AIのことだけを知っていればいいというわけにはいきません。だから、他の業界を知っている人材は積極的に受け入れています。実際、世界各国で受賞したアメリカ人の映画監督もウチで働いていますよ」(清水氏)
では、ギリアが求めている人材とは、一体どのようなものなのか? この問いに清水氏は、「誠実な野心家がほしい」と答える。
「誠実な人は頭がいいんです。現時点の自分の能力に自信を持っているので、その場しのぎの嘘をつきません。誠実な人は、嘘でその場をしのいでも、いつかしっぺ返しがくることを知っています。そのことによって自分の評価に傷がつくことも理解しています。だから、『できない』と思えば、素直に学ぼうとします。また“野心家”とは、人間は多かれ少なかれ利己的な生き物で、最終的には自分の利益を最大化する選択を選ぶものです。そうであるなら、自覚的に利己的であってほしいという意味です。そして、利己的な判断を下すとき、その基準として誠実であってほしいということです」
AIに関する情報が集まるギリア。AIに興味がある人にとっては最高の環境となることは間違いないだろう。